エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない

3 出会い

 顔を真っ赤にした由依が退室してすぐ、鞘白の執務室を訪れる者があった。

「おう、壱成。さっき由依ちゃんとすれ違ったが、ものすごい可愛い顔をしてたぞ。何かしたか?」

 にやにや笑いながら、打ち合わせ用の椅子に遠慮なく腰かける壮年の男。オーダーメイドのスーツをまとい、綺麗に整えた口髭がいかにも紳士然としているが、鞘白とよく似た形の双眸は、好奇心に子供っぽく輝いている。

 鞘白——壱成は、男を睨んで言い放った。

「所長、今は業務時間中です。業務以外の話は不適切かと。それと、私の秘書の名前を軽々しく呼ばないでください」
「寂しいこと言うなよ、可愛い甥っ子の恋路を応援しているだけじゃねぇか」

 悪戯っぽく言って片目を瞑るこの男こそ、鞘白法律事務所の所長・鞘白武雄であった。

 壱成の叔父にあたり、幼い頃から何くれと面倒をみてくれ、代々続く弁護士一族の中でも飛び抜けて優秀な彼を、壱成は尊敬している……しているのだが、プライベートに土足で踏み入れられると眉間に皺が寄る。それが小鳥遊由依に関することなら尚更だった。

 武雄は足を組み、懐かしむように右目を眇めた。

「由依ちゃんも本当に大きくなったよなぁ。あの子が両親の離婚問題でウチにやってきたときはあんなにちっちゃかったのにな」
「そこまで小さくはなかったでしょう」

 由依と初めて会ったのは、彼女が中学二年生、壱成が大学二年生のとき。武雄の執務室でのことだった。

 壱成はすでに司法試験に合格し、サマーインターン生として叔父の法律事務所で働いていた。
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