エリート弁護士は生真面目秘書を溺愛して離さない
 そんな折に、依頼人の母親とともにやってきたのが由依だったのだ。

『旦那が浮気してるみたいなんです。慰謝料、どれくらい取ってやれます?』

 どっかりと執務室のソファに腰を下ろした母親とは対照的に、由依はちんまりと膝を揃えて座った。長い髪がうつむいた顔を隠し、表情はよく見えない。けれどセーラー服の半袖からすらりと伸びる長い腕や、足元がスニーカーなところを見ると、学校では活発な少女なのではないかと壱成は思った。

『まずは不貞行為の証拠をお伺いできますか』

 壱成の隣に座った武雄が営業スマイルとともに訊ねる。母親が由依を小突き、尖った声で命じた。

『由依、あんた、アレ出しなさい』
『う、うん……じゃなくて、はい』

 由依は小突かれた脇腹を痛そうにさすり、震える手でスマホを取り出した。画面をすいすいと撫で、アルバムを表示させる。

『これはお父さんのスマホを撮ったものです。会社の……女の人と、メッセージをやり取りしてるみたいで』

 メッセージアプリのトーク画面を撮った写真だった。父親の方が女をデートに誘う内容で、文面を彩る絵文字の鮮やかさが毒々しい。

 由依の細い指がアルバムをスワイプさせれば、他に何枚もの写真が出てきた。かなり際どい言葉もあり、壱成は眉をひそめて由依を窺った。まだ中学生の少女には刺激が強すぎるのではないかと心配になったのだ。
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