この悲しみも。……きっといつかは消える

第4話

 この場には叔父のリチャードも居て。
 いつもなら、何かしら大きな声で話すのに。
 この時は何も言わず。


 抱き合い、慰め合うミルドレッドとレナードを見ていたこと等、当のふたりは気付いていなかった。



 直ぐにシールズ査察官が伯爵家を訪れるようなことを、リチャードは言ったが。
 彼が来たのは、それからようやく雨が止んだ2時間後のことだった。 


 ここより前に現場に寄ったシールズは、ひとりではなかった。
 肩から三角巾を吊り、憔悴しきって従者に支えられたカールトン・アダムスと。
 顔の片側が潰れて、片足が折れ曲がり、お腹だけが異常に膨らみ、物言わなくなったスチュワート・アダムス・レイウッド伯爵と共に、だ。


 取り敢えず泥を落とし、戸板に乗せられ、邸に運ばれてきた……
 生前は眉目秀麗だった夫の変わり果てた遺体を確認して。
 それまでギリギリの精神力で堪えていたミルドレッドは、気を失った。


 隣に居たレナードが素早く手を伸ばしたが間に合わず、ミルドレッドは床に倒れ、腰と頭を打ち付けた。
 頭部の切れた傷口から血が流れたが、また余計な世話を掛けさせる女だとリチャードは忌々しげにハモンドに、ミルドレッドの寝室に運び手当てをするように告げた。


 葬儀、譲位と領地の復興。
 決定することが多すぎて、これからが忙しくなる本番だ。
 遺体を見て、失神するような妊婦は寝ていた方が邪魔にならない。
 全てを決めてから、呼べばいい。


 リチャードの脳内には、これからの段取りしかなかった。



    
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