この悲しみも。……きっといつかは消える

第3話

 リチャード・アダムス子爵はこんな時でも、夫の行方不明に顔を青ざめさせている妊婦のミルドレッドを気遣う振りさえ見せない。


 既に喪服を着ていた叔父は、色味を押さえているとは言え、普通のドレスを着ているミルドレッドを睨め付けた。



「まだそんな格好をしているのか。
 もうすぐ査察官のシールズも来るのに、早く喪服に着替えんか!」


 地方行政査察官は王都から西部地域に派遣された3人の中央官僚だ。
 彼等は領地行政には直接口を出さないが、常に領内や領主をチェックして、中央に報告を送っている。



 スチュワートの行方不明は、早くもこのレイウッド領とミルドレッドの実家のウィンガム領を担当する査察官のベネディクト・シールズにも届いているのだ。



「……お言葉を返すようですが。
 スチュワートはまだ見つかっておりません。
 現場に居たカールトン卿からも詳しい話は聞かされていないのです。
 スチュワートは戻るとわたくしに言いました。
 妻のわたくしが夫の言葉を信じなくて……」


 正直なところ、ミルドレッドは子爵を恐れていたが、ここははっきり妻の矜持を見せなくてはと思ったことに加えて、カールトンの名前を出したのは。
 天災による事故で致し方無いとは言え、主の側に居た彼が無事なことを、父親としてリチャードがどう言うのか知りたかったからだが。
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