辞書には載ってない君のこと
借りた辞書で受ける授業はどことなくこそばゆくて、全然頭に入って来なかった。

コレじゃ借りた意味なくなってしまう、てゆーか借りない方がよかったかも。

だってラクガキ多過ぎて、そっちばっか気になっちゃうんだもん。

どんだけ描いてるのコレ… 

開いた辞書のぎっしり書かれた文字の周りに所狭しと絵が描いてある。

鉛筆で、たまに消した跡まであって。

消すくらい誇り持って描いてるのかな。

めくってもめくっても絵が描いてあって、ページをめくってることだけはわかる。


ある意味、辞書を使ってる。


絵は…上手いかどうかよくわかんないけど。

あ、果物ページに入った。
りんご、バナナ、パイナップル…思い付いたままに果物の絵を描いてる?

その前のページは野菜だったもんね、今度は果物…

あ、食べ物コーナーに変わった!
骨付き肉、ステーキ、からあげクン…全部お肉だ!!いろんなお肉描いてる!

しかもその下には縦書き文字で…

“腹減った”

「ふっ」

あ、やばい声が漏れちゃった。

「ごっゴホッ、ゴホ…っ」

今のは咳です、ちょっと喉が詰まったんです。源本先生にそんなアピールをして辞書を食らい付くように見た。

さっきからずっと辞書を見てるのには変わりないもんね。

明るい声に明るい笑顔、ぎっしり描かれたラクガキたちはまるで中村くんの頭の中を表してるみたい。


覗いちゃってるのかな、頭の中を。


楽しい人なんだろうなぁ、中村くんは。


あ、やばい。

また笑みがこぼれちゃう。
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