辞書には載ってない君のこと
………え?

透視能力?


って、普通は見えないものが見えちゃったりする能力!?

そんな特殊能力を中村くんは持ってるの…?


きょとんとする私に中村くんがトンッと自分の胸を叩いた。

「ほら、昨日だっていろはが辞書探してるのわかってたっしょ?」

「確かに…!」

そーいえばそうだ、名前だけじゃない辞書だってそうだ。永華に借りようと思ってたけど永華がいなくて借りられなかったんだ、辞書が欲しいなんて一言も言ってない。


隣の隣のクラスの前でオドオドしてただけで何も言ってない…!


それなのに、中村くんはそんなことお見通しで貸してくれたの…?

そんなことって本当にあるんだ…!


「すごいね!!!」

「嘘だよ」

「え?」

秒で返された。

パァッと目を見開いちゃった私恥ずかしい。

「そんな能力あるわけないよ」

めっちゃ笑われてる。

すごい大口開いて笑われてる。


え、私騙されたの?


「いろはおもしろいね」

「おもしろい!?」

きっとここは失礼だな!とか、バカにされてる!って怒るところかもしれないんだけど…

初めてだったから、男の子にそんなこと言われるの。
どうやってリアクション取ったらいいかわからない。

「あれはただ教室の前通った時言ってたの聞いただけだよ、隣の隣のクラスまで借りに行って来るね~って言いながら教室から出てくの見てただけ!」

「…透視能力でもなんでもないじゃん」

「信じるとも思わないじゃん」

「確かに」

「そこ納得しちゃうんだ!?」

ケラケラとまた笑われた。

今度はお腹まで押さえて、そんなにおもしろかったかな?そんな大したことは言ってないよね。

「いろはやっぱおもしろいな~!」

まったくリアクションの取り方がわからない。


怒ればいいの?

一緒に笑えばいいの?


ただ中村くんの前に立つだけで、中村くんを見るだけで。


だってずっとドキドキしてるんだもん。


名前を呼ばれたから?

中村くんが笑ってるから?


この気持ちはなんだろう、胸の奥がチクチクと鳴り出して熱くなっていく。
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