その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

11 憂鬱な夜会2

「その手・・・どうしたんだ?」

唐突にかけられた言葉に私はハッとして、振り返る。


手洗いの帰り掛けに、たまたま中庭から戻ってきた彼……ロブダート卿と遭遇してしまったのだ。

会場に到着した頃から、注意深く彼の所在を確認していたのに、少しの隙で見失ってしまったと思ったら、まさかまた外に逃げ出していたらしい。

振り返った私の表情を見た彼が、怪訝そうに眉を寄せるのが分かった。そしてその視線の先が、慌ててストールを寄せた私の左腕に動いたのも。

「何も……少し怪我をしただけですわ、ロブダート卿」

務めて他人行儀な言葉でにこりと微笑む。

たしかグランドリーはホールの方で友人たちと談笑していたはずだがそれでも、こんなところで彼と会話しているのは危険すぎる。

それなのに彼は、私の元へずんずんと近づいてきて、私の手を取る。

「まさか……あいつに?」

険を含む表情で彼が詰め寄ってくるので、私は一歩下がってその手を振り払う。

「何でもありませんの、ただ少し転んだだけです。急いでいますので、失礼いたしますわねロブダート卿」

早口でそれだけを言って、私は逃げるように彼に背を向けると広間に戻り、グランドリーの所在を確かめる。

彼は私が離れた時と同様に友人の集まる輪の中で話に夢中になっていて、ほっと胸を撫で下ろす。

そうしていると、私の周りにも数人の年若い令嬢達がやってきて、私はあっという間に彼女達に取り囲まれてしまったのだった。







「なんだか今夜は名残惜しくて、君と離れたくないな。家までうちの馬車で送らせてくれないか?」
帰宅の段になり、突如私の腰を強く抱き寄せたグランドリーは、なんとも甘い声で私にそんなことを囁いた。

当然その場にいたご令嬢達は、甘いマスクの彼がそんな甘いセリフを吐くものだから、キラキラと目を輝かせたり、赤くなってきゃぁっと歓声を上げたりしながら騒いだ。



未だかつて、彼がそんなことで私を送ろうとしたことなどなかったので、私の中では嫌な予感しかなかった。

しかしここで無下にしては、さらに火に油を注ぐ事態になりかねないので私はニコリと微笑む。

「まぁ、グランドリー、喜んで‼︎」



そうして、きゃあきゃあと浮足立つ、若い令嬢たちに手を振って、私はグランドリーに手を引かれるままに彼の家の馬車に乗り込む事となったのだった。
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