その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
2章

17 とりあえずの花嫁

「本当によろしいのですか? こんな簡単なお式で……」

結婚式当日、ドレスを着せながら未だ不満そうに口を尖らせているマルガーナに私は苦笑する。

「べつに、利害が一致した結婚なんですもの、必要以上に祝われるようなものじゃないでしょう?」

そう言えば彼女は「そうですけど……仮にも侯爵家当主の結婚式なんですから」とブツブツ言っていた。私とロブダート卿の結婚式が思いのほか質素にこじんまりと行われる事が不満らしい。
私にしてみれば、契約結婚の式にそれほどの力を入れる理由が見当たらない。むしろ準備に追われて、始めたばかりの家の事業の勉強がおろそかになる方が嫌だった。
しかも、王命で解消したとはいえ、私は少し前まで別の男の婚約者だったのだ、当てつけのように盛大に行うのもどうなのだろうかと思うのだ。

「まぁこんなの単なる儀式だから」

そう笑えば、マルガーナは「そんなぁ」とむくれるのだった。


支度が整い、隣室に移動すれば、そこにはすでに準備を終えたロブダート卿が立っていて。
いつも下ろしている髪を上げたその凛々しい姿に、一瞬息を飲む。

「いつもと雰囲気が違われるからびっくりしたわ」

近づきながらそう言えば、彼は驚いたような顔で私を上から下まで見てから、複雑そうに笑った。


「想像の更に上を行く美しさだな。一瞬、言葉を失った」

冗談なのか本気なのか分からないその笑みに私は肩を竦める。

「ふふ、ありがとうございます。ロブダート侯爵家の恥にならない出来だといいのですが?」

そう言えば彼が近づいてきて私の腰に手を添えた。

「完璧だよ」

まるで本当に愛しい人を見つめるように甘い笑みで見下ろされて、若干居心地悪く感じる。
この人って、こんな顔もできるのね……器用な人……。


「朝から、あいつの身辺は見張らせている。何かしてくるような素振りもないみたいだから大丈夫だ」

不意に彼が屈んで、私の耳元でそんなことを告げる。
あいつが指すものはすぐに分かる。

私達の結婚が決まってから、彼は密かにグランドリーの周囲を見張らせているのだ。

彼にとっては余計な手間がかかってしまっている。

「ごめんなさい」

心苦しくて彼を見上げれば、静かに漆黒の双眸が私を映していた。

「謝る必要はない。これも契約の内だからな。君が俺の妻である以上、俺は君の安全に最善を尽くす」

言い聞かせるようなその言葉に、肩の力が抜ける。

契約条件の範囲内であるならば、甘えておこう。最近はなぜかそれで彼に説得されることが多い気がする。
< 17 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop