その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

72 被害者達【ラッセル視点】


♦︎♦︎

「はじめその話を聞いた時、リドックの言った通りになっていてとても驚きました。でも……ティアナの事だけは違って別の方と結婚したって。はじめはティアナが心変わりしたのかな? とも思ったのですが、そもそも私の知っているティアナはそんな事を画策するような子ではないように思えて……それならきっとリドックが戻る前にティアナが貴方と結婚してしまったのは彼にとっては誤算だったのではないかと……そんな風に考えてしまって」




不安そうに最後を濁したエリンナの言葉に理解できるというように頷くと、彼女は目に見えてホッとしたように肩の力を抜いた。

「不確実な話になってしまって申し訳ありません……でも、どこかに認識のズレがあるような気がするのです。ティアナに直接連絡を取ろうかと思っていたら折よくご主人がおみえになったから、慌ててお声かけしてしまいました」

お仕事中だったのに申し訳ありません。と頭を下げられて慌てて首を振る。


「ちょうど、スペンス家を引き続き警戒すべきかどうか迷っていたところでしたので、教えていただけて助かりました。向こうへ戻ったらやはりよく注意しておきたいと思います。」

「私の杞憂で有ればいいのですが…」

不安げに見上げてきたエリンナに礼を言って、宣言通り何も言わずにただその場にいただけのロードモンド卿に視線を移す。

それを終わった合図と取ったのだろう、彼はエリンナの細い腰に手を回して引き寄せると

「もう、いいのか?」

と優しく彼女に問う。

「えぇ。お伝えすることはできたから……」

突然の夫の行動に戸惑ったように微笑みながらそれでもエリンナはどこか安心したような様子で頷く。夫に対して信頼しているというようなその表情に胸が締めつけられる。

もし、ティアナと心が通じていたのなら、こんな風に自分を心から信頼して頼ってくれたのだろうか。

そんな仕方のないことを考えて、軽く自嘲すると、二人に向き合う。

「夜分にお時間をいただきましてありがとうございました。」

これ以上の長居は野暮だ。挨拶を交わして、四阿を出ると、夜の中庭を建物に向かって歩いていく。


不意に頭上を見上げると、中庭に面した殿下の執務室に燈が灯っている。

そのまま建物へ入れば、入った先にディノの姿をみとめて苦笑する。

「つき合わせてすまないな。無事に終わったよ」
そう告げると、彼は真剣な面持ちで頷いて後をついてくる。

「エリンナ嬢も同級生だったのだな?」

何気なくディノに問いかけると彼はコクリと唾をのむ。

「あの、差し支えなければ、どのような話しだったのか伺っても?」

歩きながら問いかけてくる彼に、どういう意図かと視線を向けると、彼はこちらを真っ直ぐ見つめてきて……

「リドックとご夫人のティアナの関係の事なら、俺も少し知っているので、もし必要があるのならお話した方がいいのかなと思いまして」

「何か、あるのか?」

俺の問いかけに、彼はゆっくり頷く。

「リドックは、ティアナに密かに想いを寄せていました。兄の婚約者なので秘めてはいましたが……そしてティアナも同じような想いだったのだろうと……俺は思います。なんとなく2人ともそれぞれの立場を思って取り繕ってはいましたが……」


そこまで話して「すみません」と彼は詫びる。
ティアナの現夫である自分の耳入れていいものなのかと・・・…ずっと迷っていたというのだ。


「あくまで俺の主観です。でもリドックは兄と仲が悪かったのは聞いていたので、その婚約者であるティアナと親しげにしていたのは不思議で……一度聞いてみた事があるんです。そうしたら、「彼女は俺と同じスペンス家に縛られた被害者だ」と……」

「被害者、ね……」

今思えばあの性格のグランドリーに、義理の母になるはずの侯爵夫人、リドックの生い立ちなど、問題を多く抱えていたスペンス家だ。渦中のリドックがそう形容するのはうなずける。

「被害者同士だからこそわかる事があると……その過程で意気投合したけれど、それは秘めなければならない、だからこそ盛り上がっているのだって」

「盛り上がる?」

ディノの最後の言葉に眉を寄せる。すると彼は非常に言い辛いというような顔をした上で恐る恐る口を開く。

「お互いに惹かれ合っているって、リドックはいずれティアナを迎えに来るつもりだって言っていました。そしてティアナも、それを待っているって約束していたそうです」
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