その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

8 翌日の襲来1

翌日は一日中雨が降っていた。

雨だれが流れる窓の外をぼんやり眺めつつ、自室で考え事をしながら一日を過ごした。

頭の中を占めるのは、昨日のロブダート卿の言葉とあの強い眼差しだった。

強烈に心惹かれた。彼の家……ロブダート侯爵家の事業の手広さは有名だ。国内でも指折りの商団を抱え、所有する領地も潤沢で、交易が盛んだ。彼の妻になれば、その采配を夫と共に取ることができるだけでなく、新たな事にも挑戦できるだろう。

グランドリーと結婚しても、彼はどちらかと言えば女に権力を持たせたくないタイプである。家の采配にも手を入れさせてもらえないことは明白だ。実際に彼の家は、政治家の家系なので、ロブダート侯爵家とは比にならないほどその事業は小さい上、妻がやることは、あまりないのだ。

グランドリーの父、スペンス侯爵は激情しやすい息子を賢く操縦してくれる賢い娘を嫁にしたいという希望から私に白羽の矢を立てたらしい。
結局、結婚後の私の仕事は、グランドリーのご機嫌取りでしかない。

どちらが、好条件であるのか……そんなことは考えずとも答えは出る。


しかし、すでにグランドリーとは婚約関係が結ばれており、1年後には結婚式の予定も入っているのだ。

いまさらそれを覆すことができるのだろうか……もし強引にそれができても我が家は大丈夫なのだろうか。

貴族というものは信用が物をいう、一度後ろ指を指されるようなことをしてしまえば、短くとも2代先まではそれが付きまとう。
自分は良くても、15歳と12歳の弟妹達の出世や結婚にも響きかねない。



そんなリスクを負ってまで、私は自分の我を通すべきなのだろうか。

『できなくはない……だがそれにはあなたの協力が不可欠だ』

昨日のロブダート卿の言葉が脳裏に響く。

本当だろうか? いったいどんな手を使うのだろうか。

もう少し詳しくきちんと聞いておけばよかった。そうでなければ、返事など到底できない。


第一、次に彼に会えるのはいつなのかもわからない。

近い内にと彼は言ったが、いくつか招待を受けている夜会があるものの、そこに彼が確実に来るのかも分からなし、それに夜会にはすべてグランドリーが一緒だ、到底そんな話ができるような時間はない。


はぁっ

大きく息を吐くと、それと同時に部屋の扉がノックされる。

入室してきたのは侍女のマルガーナで、なんだか少し困った様子でいる。

「どうしたの?」

「あの、グランドリー様がお見えです」

「グランドリーが?」

首を傾げる。今日は来訪の約束は無かったはずだ。
何かあったのだろうか?

「分かったわ! 応接室ね?」

立ち上がって、ストールを巻き直すと、戸口へ向かう。


「それが、少しばかり気が立っているご様子で……」

一緒に階段を降りながらマルガーナが困惑したように耳打ちしてくる。

普段、外面がいい彼にしては来訪の時点で本性を表しているのは珍しい。

なんとなく嫌な予感はするが、遅くなればなるほど面倒な事になりかねないので、急ぎ足で彼の待つ応接室に向かった。
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