その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

87 回想 約束の日②

「いいよ、そのまま勉強し続けなよ。彼等が何と言おうと」

突然言われた言葉に、私はぽかんとして彼を見返した。
婚約者と義母と当たり障りなく上手くやれ!そうアドバイスされると思っていた。

それなのに、彼は抵抗してもいいと言うのだ。

「そんな事、できるの?」

信じられない思いで聞くと、目の前の彼は何かを確信しているかのように微笑む。

「今は無理かもしれない。でも、いずれ、俺がスペンス家に入って、事業を立ち上げるよ。そうしたら……一緒にやってくれる?」

思いがけない話に私は目を丸くする。


グランドリーとリドックの仲はあまり良くないものと私は認識していたし、リドックはいずれはスペンス家から完全に離れて自らの道を歩くのだろうと思っていた。

それなのに、彼はまだ実家に残り、先程懸念していた政治家一本のスペンス家を変えようと思っているのだ。

今は仲の悪い兄といずれは手を取って、実家を盛り立てていくつもりなのだと。


だから、

「分かったわ! その時をまってる」

そう軽はずみな約束を口にしたのだ。

その言葉が彼にどんな影響を与えたのか、そんな事考えてもいなかった。

そして、時を追うごとに私のそのお気楽な解釈は実現しない事を知ったのだ。

グランドリーとリドックの兄弟仲は、いずれ和解できるような関係性では無かった。

リドックの学院の卒業が近づくにつれて、スペンス家は彼を排除する方向に向かい、それは日に日にあからさまになって行った。

一家の食事会に呼ばれることはあっても、その場にリドックが同席することもなく、私以外の全ての人間が、それが普段通りという顔をしているのだ。


そうして卒業を間近にした頃、リドックが卒業後は国外に留学すると耳にして、私は無性にホッとしたのを覚えている。



スペンス家に残ることは、リドックにとって良いことなど一つもない。

彼はこの家から解放されて自由になるべきだ。
その方が幸せになれるはずだ……と。
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