完璧御曹司の溺愛
「そうだね」と、悠斗は名残り惜しそうに理央の頭を撫でた。
そして一階に降り、涼子に挨拶を済ませると、市川と共に玄関を出て、停められていた黒塗りの高級車に乗りこんだ。
理央と涼子は外に出て、その車が見えなくなるまで手を振って見送った。
「行っちゃった…」
「そうね。悠斗君、理央のカレー、喜んでくれて良かったわね」
「うん」
理央が家の中へ入ろうとした時だった。
「あ、理央」と、涼子に名を呼ばれ、振り返った。
「ん、なに?」
「……ごめんね」
涼子は急に、理央に眉を下げて謝る。
「どうしたの?何で謝るの?」
「私が他の男の人と一緒になる事、理央、本当は嫌だったんじゃないかと思って…」
「えっ」
「あなたの父親は、一人しかいないもの…」
涼子が寂しそうに呟いて、理央は慌てて否定した。
「そ、そんな事…。私の本当のお母さんだって一人しかいないんだよ?」
「理央…」
「それに、私の目眩のせいでお母さんにはずっと心配かけてきた。遅くまで私の為に働いてくれてたのも知ってる。だから私、そんな事思わないよ!」
「……理央、ありがとう。そう言ってくれて…」
涼子は微笑むと、そっと理央を抱きしめた。
昔から、何も変わらない母の体温。
幼い頃は何か不安があるたびに、母がこうやって抱きしめて安心させてくれた事を思い出す。
けれど今は、私が母を安心させてあげてるのかもしれない。
不安や孤独に苛まれるのは子供だけじゃない、大人も皆同じなんだって…
今、この歳になってようやく分かる……
「でも、芳樹さんは、天国で私を恨んでいるかしら?」
桜井芳樹
それは、理央の父親の名だった。