完璧御曹司の溺愛



「そうだね」と、悠斗は名残り惜しそうに理央の頭を撫でた。


 そして一階に降り、涼子に挨拶を済ませると、市川と共に玄関を出て、停められていた黒塗りの高級車に乗りこんだ。


 理央と涼子は外に出て、その車が見えなくなるまで手を振って見送った。


「行っちゃった…」


「そうね。悠斗君、理央のカレー、喜んでくれて良かったわね」


「うん」 


 理央が家の中へ入ろうとした時だった。


「あ、理央」と、涼子に名を呼ばれ、振り返った。


「ん、なに?」


「……ごめんね」 


 涼子は急に、理央に眉を下げて謝る。


「どうしたの?何で謝るの?」


「私が他の男の人と一緒になる事、理央、本当は嫌だったんじゃないかと思って…」


「えっ」


「あなたの父親は、一人しかいないもの…」


 涼子が寂しそうに呟いて、理央は慌てて否定した。


「そ、そんな事…。私の本当のお母さんだって一人しかいないんだよ?」


「理央…」


「それに、私の目眩のせいでお母さんにはずっと心配かけてきた。遅くまで私の為に働いてくれてたのも知ってる。だから私、そんな事思わないよ!」


「……理央、ありがとう。そう言ってくれて…」


 涼子は微笑むと、そっと理央を抱きしめた。


 昔から、何も変わらない母の体温。


 幼い頃は何か不安があるたびに、母がこうやって抱きしめて安心させてくれた事を思い出す。


 けれど今は、私が母を安心させてあげてるのかもしれない。


 不安や孤独に苛まれるのは子供だけじゃない、大人も皆同じなんだって…


 今、この歳になってようやく分かる……



「でも、芳樹さんは、天国で私を恨んでいるかしら?」



 桜井芳樹


 それは、理央の父親の名だった。






< 97 / 221 >

この作品をシェア

pagetop