続・泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた2
「今までこの店に来てたのは、ただの若衆とか凛ちゃんの子分とかだったけど、まさか反田組の幹部とこんなところでバッタリ会うとはなぁ……。いやぁ、びっくりした」
 和住さんは自身の胸に手を当て、冷や汗をかいている。

 私は未だに信じられない。
 学校の先生のような風貌したあの中年男性がヤクザ、しかも幹部クラスのヤクザであるということに――。

「っていうか、あの人、一人で何してたんだ?()()()()()()に、わざわざ凛ちゃんが関わってる店で、のんびりランチタイムってわけじゃないだろ……」
 和住さんの言葉を聞いて、私は胸の内がザワザワした。
「組が大変?反田組、何かあったんですか?」
「あれっ?幸希ちゃん知らないの?」
 和住さんは目を丸くさせる。
「凛ちゃん、ヤクザ関係の話は、私の前でしないので……」
 私は首を横に振りながら答える。
 すると、和住さんは「そっかぁ」と困ったように襟足を掻く。

「……気になる?」
「正直、気になります。凛ちゃん、何だか最近忙しそうにしてて……。でも、本人に訊いても何も教えてくれませんし……」
 私は、反田組が抗争を起こそうとしているのではないかと不安になった。抗争が起きれば、凛ちゃんも巻き込まれるに違いない。
 和住さんは私の返事を聞くと、少しの間考え込む。
「……俺から聞いたって言わないでね」
 和住さんは神妙な面持ちになる。私はそんな彼の様子を見て、ごくりと固唾を吞む。

「――実は、反田組の組長が危篤状態なんだ」
「えっ?」
 私はてっきり抗争でも起きるのかと身構えていたので、思わず拍子抜けした。
 それは、想像していたものとは違うベクトルの真実だった。
 
「元々心臓に持病があってペースメーカーを入れてるんだけど、一か月前に突然発作で倒れたんだ。今は入院してるんだけど、容態はどんどん悪くなる一方で、『今夜が山場になるかもなぁ』なんて医者が言ってるらしい。まだ七十歳手前だっていうのに……」
 和住さんは深刻そうに語る。
 私は抗争が起きるわけではないと知って思わずホッと胸を撫で下ろしてしまったが、冷静に考えると「危篤状態」というのはかなり深刻なことだ。
 凛ちゃんが最近忙しそうにしていたり、ずっと何か考え事をしているのは、組長の容態を心配していたのが理由なのだろう。

「こんなこと言うと不謹慎だけど、本当に大変なのは、組長が危篤状態の今じゃなくて、組長が()()()()()()なんだよなぁ」
「後?どういうことですか?」
「後継者争いが起きるってこと」
「後継者って、組長のですか?」
 私の質問に対して、和住さんは首を横に振る。
「いいや、次期組長は若頭の宮永(みやなが)さんで決まりだと思う。問題は、()()()()()()()()、つまり()()()()ってこと」
 和住さんの言葉を聞いて、私は「ああ、なるほど」と納得した。

「次期若頭は、今の若頭補佐の中から決まるんだよね」
「若頭補佐って、凛ちゃんですか?」
「うん、そう。反田組には若頭補佐が、凛ちゃん含めて()()いるの。これが全員曲者ぞろいでねぇ」
 和住さんはそう言って、呆れたように笑う。
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