氷の王子様は子守り男子
エピローグ
体育祭から数日後。
ふわふわしていた空気も落ち着いて、いつもの日々が戻ってきていた。
だけどね。ひとつ、前と大きく変わったことがあるの。
「知世。私今日部活ないんだけど、帰りに一緒に遊んでいく?」
「ごめん、紫。今日は、吉野くんと帰る約束してるの」
謝りながら誘いを断るけど、紫はむしろ楽しそうにニヤリと笑う。
「おぉっ、ラブラブだね。さすが、本当に彼氏彼女になっただけのことはある」
「やっ、それは……その通りだけど…………」
恥ずかしくて、ゴニョゴニョって感じで言葉を濁すと、それを聞いた紫はますますニヤニヤする。
だけど体育祭以降、私と吉野くんは、本当に付き合うことにしたんだ。
「夢みたいで、まだ信じられないけどね」
「そうかな? 私は、いつかはこうなるんじゃないかって思ったよ。それより、吉野くんのところに行ってあげなよ。さっきからずっと待ってるみたいだよ」
そうなの?
吉野くんの席に目を向けると、吉野くんは椅子に座ったまま、チラッチラッとこっちを見ていた。
「ご、ごめんね吉野くん。待った!?」
「いや。もう少しゆっくりしてもいいんだぞ」
そんなこと言ってるけど、私が声をかけた瞬間、パッと顔が明るくなってたよ。
私は私で、心臓がドキッと鳴ってたから、お互い様だけど。
「二人で放課後デート、楽しんでねーっ!」
「ちょっと、紫!」
紫は最後まで茶化して、さっさと教室から去っていった。
私も吉野くんも、なんとなく照れくさくなる。
「な、なんかごめんね」
「いや。俺も、俊介に散々からかわれてるから、もう慣れた。それに、坂部と付き合うためなら、これくらい軽いもんだ」
「ふぇっ!?」
そ、そういうことサラッと言うから、からかわれるんじゃないかな?
顔が赤くなるのを抑えるの、大変なんだからね。
「それじゃ、行くか」
「そうだね」
こうして私たちは、揃って学校を後にする。
だけど、放課後デートってわけじゃないの。
私たちが向かう場所。それは、保育園。
たっくんや日向ちゃんのお迎えがあるからね。
吉野くんのお父さんは、自分が迎えに行けるようにするつもりだったらしいけど、吉野くんが、これは俺の楽しみだからって却下したんだって。
そして私は私で、前よりたっくんを迎えに行くことが増えていた。
と言うか、お姉ちゃんにそうお願いしたの。
だってその方が、長く吉野くんと一緒にいられるから。
「なあ。坂部は、これでいいって思ってるか?」
保育園に向かう途中、吉野くんがそんなことを言ってくる。
「何が?」
「こうして俺と一緒に、毎日保育園行くことがだ。さっき言われたみたいに、放課後デートとかできた方がいいって思わないか?」
「思わないよ」
すごく簡単に即答する。
そりゃ、私だってデートしたいって気持ちはあるけど、今が不満なんて思ったことは一度もない。
「デートなら休みの日にできるし、二人の時間がほしいなら、今だってそうじゃない」
「本当か? つまらないやつって思ってないか?」
「思ってないよ。どうしたの、急に?」
「……俊介に言われたんだよ。これだけ妹優先なんて、普通のやつが彼女なら、間違いなく愛想つかされるぞって」
「そんなことないから!」
大森くん、なんてこと言うの!?
まあ、中にはそういう人もいるかもしれないけどさ、私は全然オッケーだもん!
「吉野くんも知ってるでしょ。私が、このお迎えの時間を、どれだけ大好きか」
愛想つかすどころか、むしろ楽しみにしてるんだから。
「たっくん。日向ちゃん。いい子にしてたー?」
「知世お姉ちゃーん!」
「お兄ちゃーん」
保育園に行き、たっくと日向ちゃんの名前を呼ぶと、二人揃って駆け寄ってきた。
それから、今日どんなことがあったか次々話してくるんだけど、その愛らしさたるや、まさに天使!
「俺も、俊介からシスコンだって散々からかわれたけど、坂部も相当だよな」
天使二人の笑顔を堪能する私を見て、クスリと笑う吉野くん。
もちろん吉野くんだって、二人を見て顔がとろけてる。
「そうだよ。何度も言ってるでしょ。私だって、この子たちが大好きなんだから」
「そうだっな」
私も吉野くんも、似たもの同士。
だけどそんなの、ここで吉野くんと会わなきゃ、多分ずっと知らないままだった。
だからさ、こうして一緒にお迎えに来るのは、私にとって特別なことなんだよ。
それから私たちは、四人並んで帰る。
それぞれ家の方向は違うから、そんなに長い時間じゃないけれど、その間みんなでワイワイ話すのが好きだった。
だけどね、こういう時って、たまにビックリするようなことが起きるの。
「ねえ。お兄ちゃんと知世お姉ちゃんって、付き合ってるの?」
「えっ?」
「ラブラブなの〜?」
二人とも、どこでそんなの覚えたの!?
「よ、吉野くん。もしかして、私たちが付き合ってるってこと、話したの?」
「そんなわけないだろ。そういうのはまだ早い。けどそういえば、前にもこんなこと聞かれたな」
「小さい子の知識って、侮れないかも」
吉野くんと小声でコソコソ話すけど、その間も二人は、興味津々って感じでこっちを見ていた。
「仲良しだ。すっごくな」
「すごーい!」
吉野くんの言葉に、日向ちゃんもたっくんも、キャッキャと声をあげて騒ぎ出す。
こんなハプニングを含めて、すごく楽しい。
たっくん。日向ちゃん。私と吉野くんが付き合えたのは、二人のおかげなんだからね。
小さくて可愛い二人のキューピットを間に挟んで、私たちは笑いあっていた。
ふわふわしていた空気も落ち着いて、いつもの日々が戻ってきていた。
だけどね。ひとつ、前と大きく変わったことがあるの。
「知世。私今日部活ないんだけど、帰りに一緒に遊んでいく?」
「ごめん、紫。今日は、吉野くんと帰る約束してるの」
謝りながら誘いを断るけど、紫はむしろ楽しそうにニヤリと笑う。
「おぉっ、ラブラブだね。さすが、本当に彼氏彼女になっただけのことはある」
「やっ、それは……その通りだけど…………」
恥ずかしくて、ゴニョゴニョって感じで言葉を濁すと、それを聞いた紫はますますニヤニヤする。
だけど体育祭以降、私と吉野くんは、本当に付き合うことにしたんだ。
「夢みたいで、まだ信じられないけどね」
「そうかな? 私は、いつかはこうなるんじゃないかって思ったよ。それより、吉野くんのところに行ってあげなよ。さっきからずっと待ってるみたいだよ」
そうなの?
吉野くんの席に目を向けると、吉野くんは椅子に座ったまま、チラッチラッとこっちを見ていた。
「ご、ごめんね吉野くん。待った!?」
「いや。もう少しゆっくりしてもいいんだぞ」
そんなこと言ってるけど、私が声をかけた瞬間、パッと顔が明るくなってたよ。
私は私で、心臓がドキッと鳴ってたから、お互い様だけど。
「二人で放課後デート、楽しんでねーっ!」
「ちょっと、紫!」
紫は最後まで茶化して、さっさと教室から去っていった。
私も吉野くんも、なんとなく照れくさくなる。
「な、なんかごめんね」
「いや。俺も、俊介に散々からかわれてるから、もう慣れた。それに、坂部と付き合うためなら、これくらい軽いもんだ」
「ふぇっ!?」
そ、そういうことサラッと言うから、からかわれるんじゃないかな?
顔が赤くなるのを抑えるの、大変なんだからね。
「それじゃ、行くか」
「そうだね」
こうして私たちは、揃って学校を後にする。
だけど、放課後デートってわけじゃないの。
私たちが向かう場所。それは、保育園。
たっくんや日向ちゃんのお迎えがあるからね。
吉野くんのお父さんは、自分が迎えに行けるようにするつもりだったらしいけど、吉野くんが、これは俺の楽しみだからって却下したんだって。
そして私は私で、前よりたっくんを迎えに行くことが増えていた。
と言うか、お姉ちゃんにそうお願いしたの。
だってその方が、長く吉野くんと一緒にいられるから。
「なあ。坂部は、これでいいって思ってるか?」
保育園に向かう途中、吉野くんがそんなことを言ってくる。
「何が?」
「こうして俺と一緒に、毎日保育園行くことがだ。さっき言われたみたいに、放課後デートとかできた方がいいって思わないか?」
「思わないよ」
すごく簡単に即答する。
そりゃ、私だってデートしたいって気持ちはあるけど、今が不満なんて思ったことは一度もない。
「デートなら休みの日にできるし、二人の時間がほしいなら、今だってそうじゃない」
「本当か? つまらないやつって思ってないか?」
「思ってないよ。どうしたの、急に?」
「……俊介に言われたんだよ。これだけ妹優先なんて、普通のやつが彼女なら、間違いなく愛想つかされるぞって」
「そんなことないから!」
大森くん、なんてこと言うの!?
まあ、中にはそういう人もいるかもしれないけどさ、私は全然オッケーだもん!
「吉野くんも知ってるでしょ。私が、このお迎えの時間を、どれだけ大好きか」
愛想つかすどころか、むしろ楽しみにしてるんだから。
「たっくん。日向ちゃん。いい子にしてたー?」
「知世お姉ちゃーん!」
「お兄ちゃーん」
保育園に行き、たっくと日向ちゃんの名前を呼ぶと、二人揃って駆け寄ってきた。
それから、今日どんなことがあったか次々話してくるんだけど、その愛らしさたるや、まさに天使!
「俺も、俊介からシスコンだって散々からかわれたけど、坂部も相当だよな」
天使二人の笑顔を堪能する私を見て、クスリと笑う吉野くん。
もちろん吉野くんだって、二人を見て顔がとろけてる。
「そうだよ。何度も言ってるでしょ。私だって、この子たちが大好きなんだから」
「そうだっな」
私も吉野くんも、似たもの同士。
だけどそんなの、ここで吉野くんと会わなきゃ、多分ずっと知らないままだった。
だからさ、こうして一緒にお迎えに来るのは、私にとって特別なことなんだよ。
それから私たちは、四人並んで帰る。
それぞれ家の方向は違うから、そんなに長い時間じゃないけれど、その間みんなでワイワイ話すのが好きだった。
だけどね、こういう時って、たまにビックリするようなことが起きるの。
「ねえ。お兄ちゃんと知世お姉ちゃんって、付き合ってるの?」
「えっ?」
「ラブラブなの〜?」
二人とも、どこでそんなの覚えたの!?
「よ、吉野くん。もしかして、私たちが付き合ってるってこと、話したの?」
「そんなわけないだろ。そういうのはまだ早い。けどそういえば、前にもこんなこと聞かれたな」
「小さい子の知識って、侮れないかも」
吉野くんと小声でコソコソ話すけど、その間も二人は、興味津々って感じでこっちを見ていた。
「仲良しだ。すっごくな」
「すごーい!」
吉野くんの言葉に、日向ちゃんもたっくんも、キャッキャと声をあげて騒ぎ出す。
こんなハプニングを含めて、すごく楽しい。
たっくん。日向ちゃん。私と吉野くんが付き合えたのは、二人のおかげなんだからね。
小さくて可愛い二人のキューピットを間に挟んで、私たちは笑いあっていた。