婚約破棄されたら「血みどろ騎士」に求婚されました
◇
「──お嬢様! へ、辺境伯様に求婚されたとは本当でございますか!?」
公爵邸へ戻るや否や、メイドのシアが血相を変えて部屋へとやって来た。
まずはパトリックとの婚約がダメになったことを聞かれると思っていたアニスは、彼女に気圧されつつも「ええ」と頷く。
するとシアは真っ青な顔で口を覆い、アニスの足元に座り込んでしまう。
「そ、そんなぁ……! お嬢様が『血みどろ騎士』に嫁ぐことになるなんて!」
「まだ嫁ぐと決まったわけでは……ところでシア、『血みどろ騎士』ってなぁに?」
「ご存じないのですかっ? 辺境伯様の呼び名ですよ!」
あまり褒められたものではない呼び名にアニスが眉を寄せたのが分かったのか、シアは慌てて立ち上がる。
「申し訳ありません、ですがその、辺境伯様がいつも血まみれの鎧を着ているという話が有名でして。賊を屠るだけならまだしも、機嫌を損ねた者は老若男女切り捨てる冷酷無慈悲な東の王とかも……!」
「一体誰がそんな下らない噂を……辺境伯様は立派な御方よ。わたくしたちが平和に暮らせているのも、彼らのおかげなのだから」
「そ、そうなんですけどぉ」
「ほら、着替えを手伝って。わたくし、今日はとても疲れてしまったの」
噂好きな性分を窘められたシアは、しょんぼりと反省の色を見せつつドレスを脱がしに掛かった。
(……確かに、血みどろではあったけど。それだけでこんな噂を立てられてしまうのね)
アニスは王宮での出来事を思い返し、小さく溜息をつく。
パトリックから投げかけられた無遠慮な言葉の数々にひどく衝撃を受けたはずなのに、ルディが現れたことで怒りや悲しみは吹っ飛んでしまった。代わりに、アニスの頭にはいろいろな懸念が駆け巡る。
あの後、国王と父は何を話したのだろうか。ルディの求婚は本気なのか。パトリックは国王に無断であんなことをしでかしたようだから、きっと何かしらの処分が下ることだろうけれど、立太子はどうなるのだろうか。
(駄目ね。一人で考えても仕方のないことだわ)
屋内着に着替えたアニスは一息つくと、まだ落ち込んでいるシアの口に焼き菓子を含ませる。もぐもぐと咀嚼していたら元気になったのか、そこからようやく「ところで王子殿下のことはちゃんと殴ったんですか?」とぷりぷり怒り始めたのだった。
「──お嬢様! へ、辺境伯様に求婚されたとは本当でございますか!?」
公爵邸へ戻るや否や、メイドのシアが血相を変えて部屋へとやって来た。
まずはパトリックとの婚約がダメになったことを聞かれると思っていたアニスは、彼女に気圧されつつも「ええ」と頷く。
するとシアは真っ青な顔で口を覆い、アニスの足元に座り込んでしまう。
「そ、そんなぁ……! お嬢様が『血みどろ騎士』に嫁ぐことになるなんて!」
「まだ嫁ぐと決まったわけでは……ところでシア、『血みどろ騎士』ってなぁに?」
「ご存じないのですかっ? 辺境伯様の呼び名ですよ!」
あまり褒められたものではない呼び名にアニスが眉を寄せたのが分かったのか、シアは慌てて立ち上がる。
「申し訳ありません、ですがその、辺境伯様がいつも血まみれの鎧を着ているという話が有名でして。賊を屠るだけならまだしも、機嫌を損ねた者は老若男女切り捨てる冷酷無慈悲な東の王とかも……!」
「一体誰がそんな下らない噂を……辺境伯様は立派な御方よ。わたくしたちが平和に暮らせているのも、彼らのおかげなのだから」
「そ、そうなんですけどぉ」
「ほら、着替えを手伝って。わたくし、今日はとても疲れてしまったの」
噂好きな性分を窘められたシアは、しょんぼりと反省の色を見せつつドレスを脱がしに掛かった。
(……確かに、血みどろではあったけど。それだけでこんな噂を立てられてしまうのね)
アニスは王宮での出来事を思い返し、小さく溜息をつく。
パトリックから投げかけられた無遠慮な言葉の数々にひどく衝撃を受けたはずなのに、ルディが現れたことで怒りや悲しみは吹っ飛んでしまった。代わりに、アニスの頭にはいろいろな懸念が駆け巡る。
あの後、国王と父は何を話したのだろうか。ルディの求婚は本気なのか。パトリックは国王に無断であんなことをしでかしたようだから、きっと何かしらの処分が下ることだろうけれど、立太子はどうなるのだろうか。
(駄目ね。一人で考えても仕方のないことだわ)
屋内着に着替えたアニスは一息つくと、まだ落ち込んでいるシアの口に焼き菓子を含ませる。もぐもぐと咀嚼していたら元気になったのか、そこからようやく「ところで王子殿下のことはちゃんと殴ったんですか?」とぷりぷり怒り始めたのだった。