婚約破棄されたら「血みどろ騎士」に求婚されました
翌朝、アニスは王宮に参上するようにとの手紙を貰い、父と共に馬車へ乗り込んだ。
「お父様、陛下とは何を話されたのです?」
「……うむ」
父は開いた脚の間に杖をついたまま、厳かに相槌を打つ。昨日はあまりの怒りに我を忘れて暴れていたが、今日は打って変わって大人しい。
元々それほど気性の荒い人ではないので、昨日に関しては本気で娘のために怒ってくれたのだろう。アニスがちょっとだけじんとしたのも束の間、父はおもむろに体を前に傾けて言った。
「アニス。あんな脳内お花畑の王子殿下なんて綺麗さっぱり忘れて、ラングレン殿にしなさい」
「へ?」
「いやぁ昨日初めてラングレン殿とお話ししたが、お父さんはああいう武骨な男、嫌いじゃないぞ。領地での生活が長いおかげで王都の華やかな空気には慣れていないと言っていたが、そこが良い。しかも国王陛下の覚えもめでたいと来た」
「お、お父様」
「さらにお父さんの若い頃に顔が似ている」
父は黒髪ではないし顔立ちも自分と似て少しぼんやりしているのに、一体何を言っているのか。アニスはあんぐりと口を開けてしまったが、珍しく上機嫌にぺらぺらと語る父の手前、水を差すことも出来ず。
「あれだけ実直な男なら浮気の心配もないしなぁ!」
「お父様!」
しかしやがて馬車の窓を開けて大声で叫び出したので、アニスは大慌てで父を制止したのだった。