神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜

《三》どこにもない『居場所』




夏の始まりを告げる耳鳴りのようなセミの鳴き声が、辺りに響いていた。
木陰が多いせいか、暑さはそれほど感じない。走った分だけ汗はかいていたが。

(本当に……ここどこなんだよ)

電柱がない。
ということは、電気が通っていないことになる。

「痛ッ……!」

裸足のまま屋敷を飛び出したため、美穂の足は草の葉や小石によって傷つけられたが、別に構わなかった。

(だって、あたしは死んだはずだった)

祖父母が亡くなったのち、今度は母方の叔母の家に引き取られた。
しかしその叔母は、姉である美穂の母と若い頃に恋愛のいざこざがあったらしく、ことあるごとにそのことを持ちだしてきた。

そして、住む所と小遣いは用意するが、それ以上、自分に迷惑をかけるなと言われた。また、自分のひとり息子に色目を使うなとも。

(風呂のぞかれて気味悪い思いしたのは、こっちだったけどね)

中学生という年頃のせいか本人の性嗜好(しこう)かは知らないが、下着を物色された形跡もあった。

(……マジで気色悪い親子だったな)

ふるり、と、嫌な記憶を払うように首を振る。
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