神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜
毛先が黒い金茶色の獣の耳が、頭にある───物ノ怪だ。

「どうした? 驚いて声も出ないのか?」

からかう口調と共に、美穂の(おとがい)に伸びる手は、人のもの。
冷たい感触にか、これから為されることにか。美穂の身体が、大きく震えた。

「そうおびえることもなかろうよ。
先程まで我を助けようと必死になっていたのはお前だろうに」

くつくつと、のどを鳴らす姿は、捕食するモノのそれ。
かがみこみ、美穂に視線を合わせると、金茶色の瞳に愉悦を浮かべる。

「ただの小娘に見えたが、どうやらそうではないらしい。さて、どういただこうか」

のどにすべり落ちた指先が、もてあそぶようになで伝う。

「とりあえず、我がモノとして──」

近づいた唇が、何かを察したように美穂から離れるのとほぼ同時。
風圧が美穂の鼻先を通り抜け、鈍い音が立つ。
磨かれた刃のように、傍らの幹に突き刺さっているのは、開かれた檜扇(ひおうぎ)

「アタシの“花嫁(もの)”に、気安く触ってんじゃないわよ」

つややかな声音が怒気をはらむのを、美穂は初めて耳にした───。





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