恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
「美山さん、じゃなくて社長」
「他人行儀だな」

 そう言いながら社長は、美山さんの席に座った。こうしていると以前と変わらないのに。

「来週には他部署から異動させるし、新規で採用も勧めている。しかし一斉にやりすぎたな。人事部からかなり怒られている」
「そうでしょうね」
「せっかくコンペが終わったのに今度は俺が忙しい」
「私の時間も全然空いてませんよ」

 椅子ごと引き寄せられるて、私は身じろぎをした。

「今日は終わったんだろ?空いた時間は全部俺のものにしていいよな」
「そもそも私との関係は調査のためだったんじゃないんですか」
「そんなわけないだろ、変なことを言うな」

 無理やり身体を離すと深山さんは不思議な顔をしている。

「社員と調査の為に付き合うなんてリスクしかない。そもそも社員と付き合うこと自体リスクがある。君は優秀だから重宝したいのに、恋人だからとくだらない噂も立つだろうな」
「ええ、じゃあどうして」
「簡単なことだ。リスクとかどうでもいいくらい君がほしいから」

 軽く笑って深山さんは私をもう一度抱きしめた。ダボダボの服を着ていたときは気づかなかったけどシャツだと彼の腕が逞しい事に気付かされてドキドキしてしまう。

「こんなところ見つかったら噂がたちますよ」
「別にいい。なずなが優秀なことはもう全社員が認めている。君の成績が良くたって誰も贔屓だとは思わない。そろそろ自分の凄さを認められるようになったか?」
「前より自信は持てるようになりましたよ。だけどそれは仕事で、です。恋愛としては、深山さんと並べるような」
「じゃあ美山の姿に戻れば付き合ってくれるのか?」
「そういうわけじゃないです! 見た目なんて関係なくて!」

 思わず声を上げると、おかしそうに深山さんは笑った。
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