生家で虐げられた令嬢は嫁ぎ先で溺愛スローライフを送ります

22

 サロンへ移動すると、ドルツとイジェンヌがお茶と軽食を準備してくれていた。
「精霊王様は、お茶はお飲みになりますか?」
 ドルツが聞くと、ウィンガルム様は頷いて言う。
『我は精霊王で、今はこ奴らはシルバーフェンリルの変位種と言ったが、この体は聖獣でな。借りておるので食べることもできる』
 などと返事をしたのだ。
「あの、精霊王様。借りたとおしゃいますが、この子その状態で負担はないのですか?」
 思わず声をかけたのは、本来の聖獣が負担になっていないか不安になったから。
『やはり、愛し子は優しいな。聖獣は精霊と妖精の従属なのだ。負担はないので、心配せんでも大丈夫だ』
 実体のある聖獣と、実体はない精霊。でも近しいものという認識で良いのだろうか。
 難しい、ところだが負担がないなら良かった。
 ついつい触り心地がいいので撫でていると、すりっと尻尾が私の手を撫でてくれた。
 ふわっとサラっとが同居する魅惑の毛並み。
 尻尾も、素晴らしい毛並みで、極上。
 抱きつきたい衝動を必死に抑えていたりする。
『撫でても、抱き着いてもかまわんよ?我は愛し子を嫌がることなどないし、聖獣も愛し子が好きだからな』
 精霊王様は軽く抱き着いて良いなどと言いますが、本来聖獣ってめったに人の前に現れないし見かけたらいいことがあると言われる吉兆の証では?と考えると簡単に撫でていいものかと思わなくもない。
『聖獣は精霊の従属だから、自然愛し子にも懐くぞ?これから私が離れても、目の前にシエラが居ればここに番犬としてとどまると思うぞ?良き守りになろうて』
 なんと、この大きなフェンリルが私の側に居てくれる!
 思わず、撫でていた手を止めてからクロムス様を見る。
「多分、そうなるだろうとは予測していた。大きいがこの城なら問題なく暮らせるし、フェンリルなら餌も自分で賄うだろう。飼う?とは違うと思うがシエラの側に居れば護衛騎士十人以上の防衛になるだろう」
 まさかの、本気で番犬採用の様子。
 じゃあ、もうもふもふを撫でまくって抱きしめても良いということで。
 私は精霊王様の宿るフェンリルを抱きしめてもふもふもふもふ。
 最高か!手触り極上、最初の大きさので一緒に寝たら布団なんていらないのでは!?と思うと精霊王様は教えてくれる。
『今は我が宿っておるから体を小さくしているが、我が抜ければ元の大きさのままだな。埋もれて寝るがいいよ、愛し子。そこは絶対に安全だしな』
 そんな会話をしていると、クロムス様はお茶を飲みつつ精霊王様に言った。
「抜けたらなんて言うが、お師匠は絶対ちょくちょく来る気だろう?むしろ、仕事以外はここに入り浸るだろう?」
 クロムス様の言葉に、さも当たり前というように頷く精霊王。
『もちろん、ここに愛し子がいるのだからな。五大精霊もここに来るだろうし、我もここが拠点になるだろう』
 辺境に精霊大集合ってこと? まぁ、国内だから良いのかな?
 いいってことにしておこうね、移動させられるの嫌だし。
 私は、そうしてもふもふに包まれて安心からかうとうとと眠ってしまった。
 みんながニコニコと見守ってくれており、騒動はひと段落したのだった。
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