処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
(部屋でダンスするスペースがあるなんておかしくない?)

 そう思いながら、アメリは楽しそうにリズムを取るルークを見上げる。

「ほら、ワン、ツー、スリー。ワン、ツー、スリー。」
「こう? いや、こうですか?」

 腰を抱かれて、手を重ねられて。正直それだけでもてんぱっているというのに。

(息が耳にかかる! 恥ずかしくて死ぬ! 死んじゃう!)

「体の軸がぶれないように。顔は正面。足の動きは暗記しろ」
「無理ですー!」

 しかも、ルークは案外スパルタだ。

(最近、机にいるところばっかり見ていたから油断していたけど、この人、騎士団にいたんだもんね)

 そもそもの体力が、アメリとは違うのだ。
 しかも女性慣れしていないからか、このペースに女性がついて行けないことにも思い当っていなさそうだ。

「あっ……」

 ついに足がもつれて、転びそうになる。

「おっと」

 前にバランスを崩したアメリを、胸で受け止めてくれる。

「……!」

 自然に、アメリは顔が熱くなる。男の人の胸にもたれるなんて、初めてなのだ。

「大丈夫か? アメリ」
「す、すみません」

 でも、一度動きを止めたら足が動かない。がくがくして、彼の腕から逃れることさえかなわないのだ。

(怖い。怒られる。わざとじゃないけどっ)

 かつて、イザベラが腕に触れただけで突き飛ばされた話を思い出し、一気に青ざめる。

「なんだ、足が立たないくらい疲れていたのか」

 言うなり、視界がふわりと浮いた。

「……はっ?」

 アメリは、ルークに抱き上げられていた。

「なっ……な、ななな」
「少し休憩しよう。気づかなくて悪かったな」

 アメリがパニックになっていることなど気にした様子もなく、ルークは、アメリを両腕に抱き上げたまま、ソファまで運んだ。
 ゆっくりと下ろされ、柔らかいクッションに体が沈む。

「あわ。あわ……」
「どうした、口も回らなくなったか?」

 ルークは軽く微笑んで、置いてあった水差しから水を入れてくれた。
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