処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「そ、それは私の仕事ですぅ」
「動けないんだろ。気にするな。俺だって別に、なにからなにまで世話してもらわなきゃならないほど落ちぶれてない」
(落ちぶれるとかの話じゃないのに……)

 アメリは困ってしまうが、逆に吹っ切れてもいた。
 どうせ今はダンス練習のため、ふたりきりだ。ルーク本人に気にした様子が無いのだから、甘えさせてもらっても怒られないのではないだろうか。

「では、お言葉に甘えていただきます」
「ただの水に仰々しいな」
「ルーク様がついだ水なんて、結構な希少価値がありますよ」

 口に含めば、失われた水分が体内に戻っていくようだ。緊張でそれまでは気づかなかった足の痛みも感じるようになってきた。

「どうやらこれ以上動くのは無理そうだな。しばらくここで休んでいろ。誰も来ないようにしておくから」
「はい……」
「俺は執務室に行ってくる」

 ルークは息を荒げることもなく、涼しい顔で部屋を出ていく。

(執務に戻るのかしら。すごい体力……。超人だな、ルーク様は)

 アメリは慣れないダンスに、手足を伸ばすだけで痛いというのに。

「ううう。ひどい目にあったわ」

 ソファに横になって目をつぶる。普段、こうしてゆっくりすることもないからか、自分の心臓の音も感じられる。

(フローの気配も……する)

 アメリはパペットを取り出す。倒れるように眠ったフローのことも、心配だった。

「フロー、大丈夫?」
《……ん?》

 フローの光が、点滅する。起きたみたいで、アメリの手を離れてふわりと浮かんだ。

《あれ、アメリ。どうしたの?》
「ダンスをしていたのよ。フローもずっと一緒だったのにわからなかったの? 本当に寝ていたのね」

 立ち上がろうとすると、足の痛みに襲われ、ふらついた。
< 98 / 161 >

この作品をシェア

pagetop