『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
終章

『彩生世界』じゃないほうの聖女

 『ルシス再生計画』が成り、二ヶ月が経った。
 ナツメとの交際は順調に続いていて、結婚も控えている。
 勤め先も見つかった。近所の家具屋で、小物から大型のものまでデザインする仕事だ。

(元の生活があれだったから、時短アイテムのネタには明るいのよね)

 機能的なデザインは、ルシスでも画期的だと大人気。今度、王都に支店を出すという話まで出ているので、すぐに今の職場が無くなる心配もなさそうだ。
 お互い仕事の虫な傾向があるため、ナツメと相談の上、五日に一度は休日を設けることを取り決めた。今日はその休日で、今は二人向かい合って自宅のダイニングの椅子に座っている。

「はい、二人とも。どうぞ」

 そして何故か私とナツメは、客であるはずのルーセンに茶を振る舞われていた。
 テーブルの中央に盆を置けばいいものの、ルーセンは丁寧にも私とナツメそれぞれの真っ正面にカップを置いていく。最後に自分のカップをテーブルに置いた彼は、私の右斜め前(ナツメからは左斜め前)にある来客用の椅子に座った。
 中天にあった太陽が少し傾いた時刻。そしてテーブルの上には、こちらで用意したお茶請けのクッキー。
 おやつの時間に菓子があって、茶を出されたならそれは「ありがとう、いただきます」と行きたいところだが――
 私は暫しカップを見つめ、次にナツメに目を向けた。
 ナツメも少しの間カップを注視し、それから私に向かって頷く。

「待って、二人とも。その『飲んで平気?』『大丈夫です』のアイコンタクト、失礼だから」
「ルーセンこそ、一ヶ月前の美生たちの送別会のときのこと、忘れたとは言わせないわよ」

 美生とカサハは、復活したレテの村(何と住人まで生き返った)へと引っ越した。その際に開いた送別会にて、ルーセンが淹れた茶が原因でカサハがナツメの解毒魔法の世話になったのは、記憶に新しい。

「僕だって成長してるんだよっ。ほら最近、新しい植物とか動物とかも、創ってみたし!」
「何か神っぽいこと言ってる」
「いや神だから、僕」
「ミウさんだけでなく、それを可能にしたアヤコさんもまた聖女と呼ばれていい存在ですよね」
「あっ、そうだよね。そうだ、今度神託で――」
「止めて」

 恐ろしい会話を始めた二人を、私は即座に真面目に止めた。
 しかし実際、ルシスの再生は予想以上に順調なようだ。それは素直に嬉しい。

「私の知る物語では、レテの村は完全復活まではしなかったんだけど」
「世界一つ分じゃなかったからねー、アヤコから貰った『別の僕たちの記憶』。僕の方が『どうしてこうなった』と言いたかった。というか、言った」
「そのくらいの数はあるでしょう。アヤコさんの預言のカラクリは、何度も物語を読んだことによる記憶力の賜物なんですから」
「そうなんだよねー……そういう話だったよねー。この間それ聞くまで、僕はアヤコの頭の中にぷわーっと未来が浮かび上がってるのを想像してたけど」
「生憎、そんな特殊能力は持ち合わせてないのよ」
「寧ろあれが記憶力だった方が、僕には特殊能力に思えるよ……」

 言って、ルーセンがカップに口を付ける。
 私もナツメの判断を信じて、一口飲んでみた。

「あー……うん、飲めるものになってる」
「そうですね。飲めます、一応」
「うぐぐ。反論できない」

 ルーセンがぐいっと茶を(あお)り、その勢いのままにカップをテーブルに戻す。
 成長しているという言葉に嘘は無いものの、何せ前回がマイナス――それがゼロになっただけなわけで。今後に期待したいところ。
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