『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
ルシス再生計画 -ナツメ視点-
俺は滑らかな舌触りが気に入っている果物を食べようとして、その手を止めた。まだ手を付けていないはずが、それが皿から一つ消えていた。
犯人はつい先程、一人部屋に戻ってしまった。つまりここからは、彼女が同席してはまずい『手順』とやらが絡む場面なのだろう。
(この果物もきっと、わかってて選んだんでしょうね)
意図して、俺の好物を奪った彼女。
意図して、柱までの距離を俺に聞いてきた彼女。
そして俺が彼女にピッタリな靴を用意したことも、彼女は「ナツメだから」と予想通りのこととして受け入れていた。
何とはなしに、彼女が座っていた空席に目を遣る。
「それにしても見事な再生だったよね。セネリアに断たれた世界が、すっかり元通りになってた」
しかしそこに来たルーセンさんの声に、俺は『手順』を妨害してはいけないと我に返った。
今度は意識して、ルーセンさんに目を移す。
「ルーセンさんは初めて会った時から世界について「セネリアに断たれた」と言っていましたよね。俺たちの認識は「セネリアに滅ぼされた」でした。だから俺は、例え境界線が消えても、そこに在るのは荒野と化した土地だと思っていたのですが」
「あー、あれね。世界を豹変させる魔法っていう先入観で気付けてないだろうけど、この魔法自体は実はナツメも使える奴だよ」
「え?」
「『鍵』の魔法」
「あれの原理は、対象間に物理的作用が働くのを防ぐ空間を発生させるもの――そういうことですか!」
「どういうことだ?」
驚きについ声が大きくなってしまった俺に、カサハさんが聞いてくる。
「セネリアは物理ではなく、精神の交流に鍵を掛けたということです。「在る」と認識できなければ、俺たちは見ることができない。だから、無の空間にしか見えなくなっていたんです」
「イスミナ側からは逆に俺たちが消えたということか?」
「――いえ、精神――マナは、ルシスから生じてルシスへ還ります。還ること――死ぬことができない存在は同時に生きていることもできない。ルシスから切り離された向こう側は、おそらく今まで時間が止まっていたはずです」
「大正解。で、今言ったけど『鍵』の魔法は割と使える人がいるわけ。そこでセネリアは自身のマナから生み出した玉を媒体に使うことにしたみたいだね。個人の精神になんて普通は干渉できないから」
「それで玉が見える私が喚ばれたんですね。でも、どうして私は見えるんでしょうか」
食事の手を止めたミウさんが、ルーセンさんに質問する。
「容姿が似ている人間がいるように、精神も波長が似ている人間がいるんだ。他の境界線もミウが玉に触れれば、イスミナと同じように元の世界と再び繋がるはずだよ」
「境界線は幾つあるんですか?」
「場所がわかっているのは二つ。転送ポータルですぐに行けるセンシルカの街が次の目的地として適当かな。ただ、セネリアが魔法を発動させた場所まではわからないけどね」
「セネリアが魔法を発動させた場所なら、俺が知っている」
「まさかの目撃者」
カサハさんの発言にルーセンさんが大袈裟に驚いてみせて、次いで彼はポンッと手を打った。
犯人はつい先程、一人部屋に戻ってしまった。つまりここからは、彼女が同席してはまずい『手順』とやらが絡む場面なのだろう。
(この果物もきっと、わかってて選んだんでしょうね)
意図して、俺の好物を奪った彼女。
意図して、柱までの距離を俺に聞いてきた彼女。
そして俺が彼女にピッタリな靴を用意したことも、彼女は「ナツメだから」と予想通りのこととして受け入れていた。
何とはなしに、彼女が座っていた空席に目を遣る。
「それにしても見事な再生だったよね。セネリアに断たれた世界が、すっかり元通りになってた」
しかしそこに来たルーセンさんの声に、俺は『手順』を妨害してはいけないと我に返った。
今度は意識して、ルーセンさんに目を移す。
「ルーセンさんは初めて会った時から世界について「セネリアに断たれた」と言っていましたよね。俺たちの認識は「セネリアに滅ぼされた」でした。だから俺は、例え境界線が消えても、そこに在るのは荒野と化した土地だと思っていたのですが」
「あー、あれね。世界を豹変させる魔法っていう先入観で気付けてないだろうけど、この魔法自体は実はナツメも使える奴だよ」
「え?」
「『鍵』の魔法」
「あれの原理は、対象間に物理的作用が働くのを防ぐ空間を発生させるもの――そういうことですか!」
「どういうことだ?」
驚きについ声が大きくなってしまった俺に、カサハさんが聞いてくる。
「セネリアは物理ではなく、精神の交流に鍵を掛けたということです。「在る」と認識できなければ、俺たちは見ることができない。だから、無の空間にしか見えなくなっていたんです」
「イスミナ側からは逆に俺たちが消えたということか?」
「――いえ、精神――マナは、ルシスから生じてルシスへ還ります。還ること――死ぬことができない存在は同時に生きていることもできない。ルシスから切り離された向こう側は、おそらく今まで時間が止まっていたはずです」
「大正解。で、今言ったけど『鍵』の魔法は割と使える人がいるわけ。そこでセネリアは自身のマナから生み出した玉を媒体に使うことにしたみたいだね。個人の精神になんて普通は干渉できないから」
「それで玉が見える私が喚ばれたんですね。でも、どうして私は見えるんでしょうか」
食事の手を止めたミウさんが、ルーセンさんに質問する。
「容姿が似ている人間がいるように、精神も波長が似ている人間がいるんだ。他の境界線もミウが玉に触れれば、イスミナと同じように元の世界と再び繋がるはずだよ」
「境界線は幾つあるんですか?」
「場所がわかっているのは二つ。転送ポータルですぐに行けるセンシルカの街が次の目的地として適当かな。ただ、セネリアが魔法を発動させた場所まではわからないけどね」
「セネリアが魔法を発動させた場所なら、俺が知っている」
「まさかの目撃者」
カサハさんの発言にルーセンさんが大袈裟に驚いてみせて、次いで彼はポンッと手を打った。