『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
第一章 完全勝利目指します

ステージ1(チュートリアル)

「アヤコさん」

 最後尾を行くナツメから、声を掛けられる。

「くどいようですが、これは夢ではありません、だから怪我などに注意して下さい」
「忠告ありがとう。けど、心配しなくても夢でも現実でも怖けりゃ逃げるって」

 思ったより長いな、この()(せん)階段。前を走る三人に遅れないよう、必死で駆け上がりながらナツメに返す。

「――確かに。もっともな答です」

 やや遅れてナツメから返事がくる。
 可愛げのない返事で申し訳ない。なにぶん聖女じゃないほうなので。
 そう心の中で言い訳したタイミングで、視界が開けた。地上に到着だ。
 立ち止まった私の隣に、後ろから来たナツメが並ぶ。

(あ、やっぱり。ステージ1)

 『交信の間』に繋がる階段、目の前のフロアに左右対称で規則正しく立ち並ぶ神殿の柱、柱同様に等間隔で壁に設置されている魔法の照明。魔獣は三体。そのどれもに見覚えがある。
 正確に言えばゲーム画面はドット絵のため、「見覚え」と言うと少し違う。が、もし背景絵に描き直したらこんな感じという、脳内変換ができるレベルのゲーマーである私に死角は無い。

(ここならチュートリアルだし簡単。気に掛かるのは――)

 私は、敵を警戒し身構えている面々を一人ずつ見遣った。

「ねぇ、皆は本気で私の『予言』を信じて戦おうと思ってくれているの?」

 気掛かりは率直に尋ねるに限る。

「鵜呑みにはできない。だが聞かせて欲しい」
「僕もカサハと同じ」

 大剣を構えたカサハ、二本の短剣を手遊びするルーセンの順で、やんわり否定の返事がくる。
 まあ、普通そうよね。

「参考までにって前置きが付いて申し訳ないけど、アヤコなら、ここをどう戦う?」

 ルーセンが手遊びを止め、私に聞いてくる。

「ここなら一択だわ。――ナツメ、柱から柱までの幅って何メートル?」
「八メートルです」
「ゲーム画面でここの幅は八マス。ならグリッド一マスは一メートルか……わかった、ありがとう」

 フロアを見回し、私は目を閉じた。
 瞼の裏に、数十回は見ただろう戦闘画面のマップを思い描く。

「まず、カサハが三メートル南へ。そこで間合いに入る魔獣を西側から攻撃、これを撃破。美生は一メートルほど離れてカサハの真後ろに。ルーセンは南西へ三メートル、射程に入った魔獣に西から攻撃。それを美生がその場で魔法を打って追撃、撃破。次にカサハ、美生の順で二人とも二メートル南へ。その後にルーセンはカサハの西側の隣へ……」

 ドット絵のキャラたちが、マップ上を動く。
 私はそれを実況した。

「敵が全員の攻撃範囲内に入ったら、ルーセン、美生、カサハの順で攻撃、撃破。これで終了よ」

 ステージクリアのファンファーレが鳴る幻聴とともに、私は再び目を開けた。
 途端、妙なものを見たといった表情のルーセンと、目が合った。
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