『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~

思い出の中の人 -ナツメ視点-

 復活した領主邸では、センシルカ騎士団による保護活動が行われていた。
 今のところ俺の出番はないようだ。彼らの様子からして、何故保護されているのかもわかっていない。イスミナ同様、必要なのは治療士ではなく状況説明をしてくれる人間だろう。
 俺は領主邸から、俺たち四人の前に立つ二人に注意を移した。
 騎士団長と、それから十一、二歳ほどの少年。騎士団長は、カサハさんを引き抜いた際に会っている。少年の方とは面識がない。

「私はライフォードという。本来なら領主である父が礼をせねばならぬところ、私のような者で申し訳ない。父は賓客の対応で手が離せないのだ。どうか許して欲しい」

 領主の子息を名乗った少年が前に進み出て、しっかりとした口調でそう話を切り出す。身なりからして、そうだろうとは思っていた。

「私たちの事情は騎士団長から聞いた。信じがたい話だが、よく知った者が知らない姿で現れたのだ、信じるほかない」

 ライフォード様は隣に立つ騎士団長に目を遣り、また俺たちに目を戻した。
 現騎士団長は、十七年前は領主邸に詰めていたはず。彼と顔見知りであったためライフォード様は、早くに状況を理解できたということか。

「貴殿らは若いから、きっと我々のことを知らないだろう。見ず知らずの私たちのために尽力してくれたこと、父に代わって感謝申し上げる」

 そう言葉を括るライフォード様に、騎士団長がサッと顔色を変えた。一瞬で平常には戻したが、俺の目は(とら)えていた。――俺の隣で同じような顔色をした人物がいたことも。

「――光栄です。ライフォード……様」

 カサハさんが頭を垂れる。俺を含めた他の面々も、彼に倣う。

(ああ……カサハさんにはとっては、「見ず知らずの誰か」ではなかったんですね)

 誤魔化しきれない()(もん)の表情を隠すよう、深く礼を執ったカサハさんの横顔を盗み見る。
 その顔が、かつてセンシルカで荒れていた彼のものと重なる。

(境界線が元に戻っても、戻らないものがある……)

 頭を上げ、簡単な挨拶とともにこの場を離れた二人を見送る。
 ただ一人カサハさんだけが、彼らの姿が完全に見えなくなるまで礼を執り続けていた。
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