『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~

尾行

 大通りに露店が並ぶ活気のある市場を、私はナツメとゆったり歩いていた。前を行く美生とカサハを気にしつつも、普通に市場の雰囲気を楽しむ。このイベントで最初の選択肢が発生するのはもう少し後。息抜きするなら今のうちだ。
 という理由で、先程から色々買い食いしていたりする。ナツメに奢ってもらったドーナツのような菓子を食べ終え、私は包み紙を街角の屑籠へと捨てた。

「ねぇ、ナツメは美生たちに私を好きになった理由について、有ること無いことたくさん述べてたわけだけど……私が貴方を好きになった理由が「俺の顔が好きなそうです」だけってのは、どうかと思うのよ」

 美生たちに「恋人報告」したときのことを思い返していた私は、空になった口で右隣を歩くナツメにそう切り出した。
 年頃の少女らしく恋バナに食いついてきた美生に、想定していたのかナツメはスラスラと馴れ初め的なことを口にした。それについてはさすがと思ったものの、急ごしらえとはいえその内容がいただけない。ナツメの顔は確かに見惚れるレベルだが、あれでは私はとんだ面食い女だ。
 隣で聞いているのが居た堪らなくて半ば聞き流してはいたが、ナツメは色々私に惚れた理由を話していたと思う。よく即席であれだけ思い付くものだ。私には無理な芸当だから、そういった話をすると前もって教えて欲しかった。

「あれは、すみません。消去法で顔以外に思い浮かばなかったんですよ。まさか俺のこの性格を好きになったというのは、無理があるでしょうし」
「そんなことないわよ」

 謙遜ではなさそうなナツメに、ぎょっとする。ゲームでのナツメは、美生の恋心にとことん気が付かないキャラだった。ここでも自身の魅力についての鈍感さは健在らしい。

「丘での戦闘で私が回復の指示をしようとしてまごついたのを、わざと茶化してくれたでしょう? 私が言い辛いとナツメは思ったんじゃない? それって格好良い性格じゃない」
「……わざとなのを本人に悟られてしまうとか、逆に格好悪いですよ」

 ナツメが少し照れたような口調で答える。
 それから一拍置いて、彼は真剣な眼差しをこちらに向けてきた。

「それに丘でも言いましたが、本来礼を言わねばならないのは俺たちの方です。俺が今回の戦いまで補助魔法だけで済んでいたのは、貴女の指示が的確であったからに他ならない。予言のカラクリを知っている俺は、なおさらに痛感しています。本当にありがとうございます」
「そ、そう。役に立てたようで良かったわ。それにしても、実際何も無かった場所に土地が現れるのはすごいわね。この世界の人たちにとっては、失った場所が戻ってきてもっと感動が大きいだろうし」

 急に真面目な顔で感謝の言葉を述べてくるナツメに、私は自分の方が恥ずかしくなり話題を換えた。
 あからさまな話題転換ではあるが、今言ったことはありのままの感想だ。ゲーム画面では一丁上がりくらいの感覚だったが、実際目にするとあれは大掛かりなマジックショーのようで。ゲームでどよめいていたモブキャラたちと、私はきっと同じ反応をしていたと思う。

「それは否定しませんが――今回のカサハさんのように、本当の意味では失ったままというパターンもあります。やはりセネリアの所業は許しがたいものです」

 ナツメが小声で言って、六、七メートルほど前方を歩くカサハの方を見る。
 私もカサハの方へと目を向けた。
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