『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
第三章 イベント回避の方向で

王都ルシルサへ

 王都ルシルサは森を抜けた山中にある。
 昔、イスミナ地方に在ったが何らかの原因で壊滅的状況に追い込まれ、住人たちがルシルサ地方の砦に避難。その砦がそのまま今の王都になった。
 ――という説明を、今まさにナツメが皆にしている。タフにも山登りの真っ最中に。

(何らかというか、魔獣が原因なんだけどね)

 すぐ後ろを歩くナツメの乱れない声調に感心しながら、私は心の中で付け加えた。
 この時点では成り立ちの説明をしているナツメも含め、そこまでの情報を知っている人物は誰もいない。口を滑らせないよう気を付けなくては。
 もっともその口は、とても余計なことを言う余裕も無いわけだが。

「きつい……」

 王都へは最寄りの転送ポータルというものは無く、センシルカからまず三時間平原を歩いた。昼食を取り、少し休憩を挟んでさらに一時間平原を行くと、そこから山道が始まった。山道に入ってからは一時間も経っていないと思うが、正直かなり私はへばっている。
 最初から荷物はカサハに持ってもらい手ぶらだというのに、この体たらく。足そのものより呼吸がつらい。典型的な運動不足の症状である。

「アヤコは元の世界で軟禁されてたからね……」
「いつまでそのネタを引っ張る気なのよ」

 最後尾を歩くルーセンの呟きに、余力も無いのについ反応してしまう。からかいではなく、ルーセンは本気でそう信じているようなのが困る。

「王都に着いたらアヤコは休んでいるといいよ。どうせ暫く境界線探しをすることになるだろうし」
「彩子さん頑張って下さい。建物が見えてきました、もうすぐ着きますよ」
「うん……」

 並んで歩く美生に励まされ、私は彼女に力無く返事をした。
 美生も同じ現代人――正確には現代人設定――のはずが、彼女の方は割と元気そうである。

(私も学生時代はもう少しマシだったかな。体育の時間で嫌でも運動する機会があったし)

 美生が見えてきたという建物を見上げる気力も無く、私はひたすら地面を睨みながら足を進めた。

「境界線の場所について、大まかにでもアテはあるのか?」

 先頭を行くカサハが、ルーセンに尋ねる。

「ルシルサも空まで境界線が貫いてたらわかりやすかったんだけど、言っても仕方ないよね。アテが無いことは無いよ。ざっくり言うと、「マナが少ない場所」。前も人間の身体で例えたけど、息を吐き切ったところで呼吸を阻害した方が殺しやすいから。狙うならそういう場所だと思う」
「マナが少ないと言われてもな」
「境界線の中心部だったのは、イスミナは街の入り口の転送ポータルで、センシルカは領主邸。転送ポータルの方は他の魔法道具と違って、使う人本人じゃなくてルシスに浮遊するマナを消費するという仕様が原因。領主邸の方は、要人が多数呼ばれる催し物によって、魔法衣を着ている人間が多かったせいかな。あれもルシスのマナを消費するから、一時的にマナが少ない場所になっていた可能性が高いよ」
「ルシルサに転送ポータルは無く、魔法衣にしても、これまで人目に触れなかったような場所に、それほどの人が集まる施設があったとは考えにくい」
「今までの情報をまとめると王都の境界線があるのは、「魔法を掛ける範囲が一望できる場所」で、「マナが少なくなりそうな場所」で。それから、セネリアは王族や貴族じゃないから「一般人でも入れる場所」ということになるかな」
「限られているようで、実際の対象範囲は相当広いのでは?」
「そうとも言う。行ってみて、地道に探すしかないね」
「骨が折れそうだな」
「そうですね。調査が長引いて、王都の騎士団に不審に思われたらまた厄介です」

 溜息をついたカサハに、彼以上にうんざりした顔でナツメが話に入ってくる。

「あ、その辺はミウが同行してたら大丈夫じゃないかな?」

 そんな中、二人と違いルーセンだけはあっけらかんと返してきた。
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