『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
裏設定
私は広場のベンチに座り、スケッチブックに花壇の花の絵を描いていた。
美生が王城へ出向いた日から七日が経過した。今も境界線探しは難航している。今日の皆は、境界線探しは一時中断。ルーセンの提案で一日休みとなっていた。
そしてその日が、ゲームでは次の事件の幕開けとなる。
(ようやく次の展開ね)
私は、ふっと空を見上げた。
高い位置に太陽がある。ちなみにルシスも多くのファンタジーものと同じく、太陽と月はそのままの名称で存在する。
そろそろ昼だし、頃合いだ。午前中は、美生が現在ルートに入っているキャラとの個別イベントが発生する。だから私が合流するのは、午後から。私は、なかなか良い出来栄えだと自画自賛しながら、スケッチブックと鉛筆を肩掛け鞄に仕舞った。
(あ。あれって)
立ち上がったところで、見覚えのある赤毛の少年の姿が目に入る。
「ロイくん!」
私は、大通りから広場に入ってきた少年の名を呼んだ。
「あ、アヤコさん」
何度か話して面識があった彼は、すぐにこちらに気付き走って来てくれた。
「ロイくんも、ルシルサに来てたのね」
「はい。イスタ邸で栽培してるマトリの花の納品に来たんです」
「あー、あれってロイくんが納品してたんだ」
手ぶらなところを見ると、既に納品後らしい。
マトリの花はイスタ邸に咲いていたものを、以前美生と一緒に見たことがあった。ゲーム画面でも見たことがあったが、パンジーに似ている花だ。カサハのシナリオに登場する花で、そのときの美生も「前にカサハと見た花」だと言っていた。
「はい。王都で人気みたいですね。とはいえ、団長にまで花言葉を聞かれたのには、驚きましたけど」
「えっ⁉」
思いの外大きな声が出てしまい、私は慌てて自分の口を手で押さえた。
ロイくんが「やっぱりそういう反応になりますよね」と笑うが、私が驚いたのはそこではない。
(あれって、ロイくんから教えてもらってたのか)
ゲーム中では、カサハは「人から聞いた」としか言っていなかった。まさかそんな裏設定があったとは。
けれどこういった色恋に関する質問をする相手にロイくんを選ぶのは、案外正しい選択かもしれない。何せ彼は個別シナリオで、他の年上三人を差し置いて、ゲーム中に唯一美生にプロポーズしてくるキャラである。もっと言うなら、年上三人が美生が元の世界に帰る帰らない問答をしているのに対し、ロイくんだけは当然のようにして美生の世界に一緒に行く姿勢を見せていた。「僕があなたの世界に行きます。例えあなたにルシスの記憶が無くても、僕を忘れたあなたと、僕はもう一度恋を始めたいと思います」と言い放ってしまうぶれない恋愛上級者の最年少、それがロイくんだった。
「あっと、すみません。この後、調達の仕事もあるので行きますね」
「あ、うん。頑張って」
こちらへ来たときと同様、やはりロイくんが走って去って行く。ここに彼がいるということは、あの山道を登ってきたということ。花の納品なら到着してすぐ店に向かっているだろうし、これから調達して、もしかするとトンボ返りするつもりかもしれない。
(元気だ……)
もう完全に姿が見えなくなった彼を羨ましく思いながら、私はナツメの邸へと向かって歩き出した。
美生が王城へ出向いた日から七日が経過した。今も境界線探しは難航している。今日の皆は、境界線探しは一時中断。ルーセンの提案で一日休みとなっていた。
そしてその日が、ゲームでは次の事件の幕開けとなる。
(ようやく次の展開ね)
私は、ふっと空を見上げた。
高い位置に太陽がある。ちなみにルシスも多くのファンタジーものと同じく、太陽と月はそのままの名称で存在する。
そろそろ昼だし、頃合いだ。午前中は、美生が現在ルートに入っているキャラとの個別イベントが発生する。だから私が合流するのは、午後から。私は、なかなか良い出来栄えだと自画自賛しながら、スケッチブックと鉛筆を肩掛け鞄に仕舞った。
(あ。あれって)
立ち上がったところで、見覚えのある赤毛の少年の姿が目に入る。
「ロイくん!」
私は、大通りから広場に入ってきた少年の名を呼んだ。
「あ、アヤコさん」
何度か話して面識があった彼は、すぐにこちらに気付き走って来てくれた。
「ロイくんも、ルシルサに来てたのね」
「はい。イスタ邸で栽培してるマトリの花の納品に来たんです」
「あー、あれってロイくんが納品してたんだ」
手ぶらなところを見ると、既に納品後らしい。
マトリの花はイスタ邸に咲いていたものを、以前美生と一緒に見たことがあった。ゲーム画面でも見たことがあったが、パンジーに似ている花だ。カサハのシナリオに登場する花で、そのときの美生も「前にカサハと見た花」だと言っていた。
「はい。王都で人気みたいですね。とはいえ、団長にまで花言葉を聞かれたのには、驚きましたけど」
「えっ⁉」
思いの外大きな声が出てしまい、私は慌てて自分の口を手で押さえた。
ロイくんが「やっぱりそういう反応になりますよね」と笑うが、私が驚いたのはそこではない。
(あれって、ロイくんから教えてもらってたのか)
ゲーム中では、カサハは「人から聞いた」としか言っていなかった。まさかそんな裏設定があったとは。
けれどこういった色恋に関する質問をする相手にロイくんを選ぶのは、案外正しい選択かもしれない。何せ彼は個別シナリオで、他の年上三人を差し置いて、ゲーム中に唯一美生にプロポーズしてくるキャラである。もっと言うなら、年上三人が美生が元の世界に帰る帰らない問答をしているのに対し、ロイくんだけは当然のようにして美生の世界に一緒に行く姿勢を見せていた。「僕があなたの世界に行きます。例えあなたにルシスの記憶が無くても、僕を忘れたあなたと、僕はもう一度恋を始めたいと思います」と言い放ってしまうぶれない恋愛上級者の最年少、それがロイくんだった。
「あっと、すみません。この後、調達の仕事もあるので行きますね」
「あ、うん。頑張って」
こちらへ来たときと同様、やはりロイくんが走って去って行く。ここに彼がいるということは、あの山道を登ってきたということ。花の納品なら到着してすぐ店に向かっているだろうし、これから調達して、もしかするとトンボ返りするつもりかもしれない。
(元気だ……)
もう完全に姿が見えなくなった彼を羨ましく思いながら、私はナツメの邸へと向かって歩き出した。