『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~

禁書

「ここでルーセンさんが言ったものと同じ『ルシルサの奇跡』の記述が見つかれば、セネリアは禁書庫に入ったと思ってよさそうですね」

 今程まで手に取っていた本を棚に返しながら、ナツメが口にする。
 ちなみに彼らが先程から中身を試し読みしては返すを繰り返すのは、すべての本にタイトルが書かれていないからだ。禁書というだけあって、パッと見では内容がわからないようになっている。

「あっ。それなんですけど、さっきの管理人さんが言うには、セネリアが禁書庫に入室した可能性は高いそうです。彼は過去にセネリアに会ったことがあるそうで、当時の管理人さんと彼女が禁書の話をしていたのを聞いたと」

 美生が屈んで下の段の本を取りながら報告する。その右隣の棚の前にいたナツメが、彼女を振り返った。

「それからその頃のセネリアは、魔女どころか聖女と呼ばれていたそうです。彼女の故郷の果てを塞いだとかで。そしてここでもセネリアは、自分は『ルシルサの奇跡』の第二王子レテの遺志を継ぐ者だと言って、窓の外に広がる果てを塞いでみせたそうです。その光景を目の当たりにした当時の管理人さんは、そんな彼女を『本物の聖女』と心酔していたとのことでした」
「それでセネリアを禁書庫へ案内した可能性が高いと。塞いだというのは、実際は境界線を発生させたわけですよね。しかし、レテの遺志を継ぐ者……ですか」

 思案顔になったナツメは、本棚へと目を戻した。
 美生も本の確認を再開しようとして、「そういえば」とまた手を止める。それから彼女は、自分の左側に立つルーセンに顔を向けた。

「レテ王子と言えば……ルーセンさんて、レテ王子にそっくりですよね?」
「へっ⁉」

 美生と同じ本棚の前にいたルーセンが、裏返った声を上げる。
 そして彼は、ぎこちない動きで美生から顔を背けた。

「今日、侍従長さんに会うために通して貰った部屋に、ルーセンさんの肖像画があって驚いたんです。それで聞いてみたら、『ルシルサの奇跡』を起こしたレテ王子だと教えてもらいました」
「え、いや、その、勘違いじゃないかな。僕は王族じゃないし、うん」
「――時に、ルーセン。境界線の方はどうだった?」

 顔を背け過ぎてもはや美生に背中を向けていたルーセンを見かねてか、やや離れた場所にいたカサハが話題を換えてくる。

「あ、うん。果てが無くなってた」

 助け船に、ルーセンは即答した。

「昨日やったみたいに石を投げたらさ、当然のように境界線の向こうから出てきたんだよね」

 そのままルーセンが石を投げる真似をしながら、状況報告する。

「昨夜のマナの光と無関係とは考えにくいな」
「その境界線のことなんですが、気になることがあります」

 そこへナツメが片手を挙げて、話に参加してきた。
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