『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
レテ
ナツメの邸、美生に宛がわれた部屋。未だ意識が戻らない美生が、カサハの手でベッドに寝かされる。
ベッドを囲むようにして、皆が彼女を見下ろしていた。
「ナツメ、ミウはどうなんだ?」
「前回のようにマナの流出が原因というわけではないようです。考えられるのは――」
カサハとナツメが話し始めたのを見て、私はルーセンの肩をツンツンと突いた。
「ルーセン、ちょっと」
振り返った彼に小声で言って、部屋の隅まで手招きする。結構な広さの部屋なので、充分に離れればこちらの会話は聞こえないはず。
「ルーセン、身体は大丈夫? 昨日も昼まで倒れていたでしょう?」
この辺りでいいだろうと思った場所で、私はやはり小声で話を切り出した。
「えっ、いやいや昨日のあれは惰眠を貪っていただけで――って、あ、アヤコは知ってるんだった……はい、そうです。その通りです」
降参といったように、ルーセンが両手を挙げる。
「でもまあ、貧血みたいなものだよ。そういうのあるでしょ? 人間だって」
それから彼は私に顔を寄せ、声を潜めて言った。
「――そうね」
そうしたルーセンに釣られたわけではないが、私も声を潜めて返事する。
そしてふと見れば思ったより間近にあったルーセンの顔に、私は何とはなしにその額に手を当てた。
「! ちょっ」
「うーん……熱とかが出るわけじゃないか」
額に当てていた手で、今度は彼の首の脈を診る。
「アヤコ、ちょ、アヤコっ」
「ん? 速くない? しかも汗掻いてない? やっぱり体調悪い?」
「それ絶対違う理由だから。ねえ、アヤコ、心配してくれるのは嬉しいよ、嬉しい。でももうあっちに戻っていいかな? 僕さっきからナツメに視線で射殺されそうなんだけどっ」
「え?」
さらに脈を速くしたルーセンの訴えに、私はナツメを振り返った。
「こっちは見てないみたいだけど」
「見てなくてこの殺気⁉ もっと怖い!」
ルーセンが私の手を外し、元いた場所に駆け足で戻っていく。
その足音に反応してか、それまで美生だけを見ていたカサハがルーセンを見て――それから私の方へと大股で歩いてきた。
(え?)
理由がわからず呆然と、近付いてくるカサハを見る。
そこへ不意に、私の視界が何かによって遮られた。
「アヤコ! ミウはどうなっている、無事なのか⁉ 知っているんだろう、答えろ!」
その何かの向こう側から、カサハが叫ぶ。
「アヤコさんは答えられません。知っていても、です。その理由はカサハさんもご存じでしょう? 大局を見誤らないで下さい」
何か――ナツメが、私に代わりカサハに答えた。
(庇いに来てくれたんだ)
立ちはだかったナツメの背の向こう、カサハのその剣幕は想像に容易い。私は張り詰めた空気に、安心感を求めてナツメの背中にそっと触れた。
(温かい)
布越しに体温が伝わるはずがないのに。感じるはずのないそれを、私は感じた気がした。
ベッドを囲むようにして、皆が彼女を見下ろしていた。
「ナツメ、ミウはどうなんだ?」
「前回のようにマナの流出が原因というわけではないようです。考えられるのは――」
カサハとナツメが話し始めたのを見て、私はルーセンの肩をツンツンと突いた。
「ルーセン、ちょっと」
振り返った彼に小声で言って、部屋の隅まで手招きする。結構な広さの部屋なので、充分に離れればこちらの会話は聞こえないはず。
「ルーセン、身体は大丈夫? 昨日も昼まで倒れていたでしょう?」
この辺りでいいだろうと思った場所で、私はやはり小声で話を切り出した。
「えっ、いやいや昨日のあれは惰眠を貪っていただけで――って、あ、アヤコは知ってるんだった……はい、そうです。その通りです」
降参といったように、ルーセンが両手を挙げる。
「でもまあ、貧血みたいなものだよ。そういうのあるでしょ? 人間だって」
それから彼は私に顔を寄せ、声を潜めて言った。
「――そうね」
そうしたルーセンに釣られたわけではないが、私も声を潜めて返事する。
そしてふと見れば思ったより間近にあったルーセンの顔に、私は何とはなしにその額に手を当てた。
「! ちょっ」
「うーん……熱とかが出るわけじゃないか」
額に当てていた手で、今度は彼の首の脈を診る。
「アヤコ、ちょ、アヤコっ」
「ん? 速くない? しかも汗掻いてない? やっぱり体調悪い?」
「それ絶対違う理由だから。ねえ、アヤコ、心配してくれるのは嬉しいよ、嬉しい。でももうあっちに戻っていいかな? 僕さっきからナツメに視線で射殺されそうなんだけどっ」
「え?」
さらに脈を速くしたルーセンの訴えに、私はナツメを振り返った。
「こっちは見てないみたいだけど」
「見てなくてこの殺気⁉ もっと怖い!」
ルーセンが私の手を外し、元いた場所に駆け足で戻っていく。
その足音に反応してか、それまで美生だけを見ていたカサハがルーセンを見て――それから私の方へと大股で歩いてきた。
(え?)
理由がわからず呆然と、近付いてくるカサハを見る。
そこへ不意に、私の視界が何かによって遮られた。
「アヤコ! ミウはどうなっている、無事なのか⁉ 知っているんだろう、答えろ!」
その何かの向こう側から、カサハが叫ぶ。
「アヤコさんは答えられません。知っていても、です。その理由はカサハさんもご存じでしょう? 大局を見誤らないで下さい」
何か――ナツメが、私に代わりカサハに答えた。
(庇いに来てくれたんだ)
立ちはだかったナツメの背の向こう、カサハのその剣幕は想像に容易い。私は張り詰めた空気に、安心感を求めてナツメの背中にそっと触れた。
(温かい)
布越しに体温が伝わるはずがないのに。感じるはずのないそれを、私は感じた気がした。