『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
第四章 意味と願いと選択と
峡谷
レテの村周辺の転送ポータルは、二十年前に故障している。
ガラム地方の状況を鑑みるに、実際のところは『果てに呑まれて装置自体が消失している』、というのがナツメの見解だ。
ザリッ
王都からレテの村への山中。徐々に硬い土質になる道を、私たちは等間隔で列になって歩いていた。
先頭から、カサハ、美生、ナツメ、私、ルーセンの順で行く。
王都周辺とは違い、こちらは岩場が目立つ。歩いている道は峡谷の崖の上で、眼下に細い川が流れているのが見えた。
「アヤコさん、魔法の効果はどうですか?」
「大分、呼吸が楽。ありがとう」
歩きながらこちらを振り返ったナツメに、私は余裕――とまではいかないが笑顔で返した。
今回も山歩きということで、ナツメが出掛けに身体能力を上げる魔法を掛けてくれたのだ。ありがたい。
出掛けといえば、出発前にカサハから詰め寄ったことに対する謝罪があった。
一人だけ場違いに冷静な人間がいたら、突っかかりたくもなると思う。彼には、気にしていないと伝えた。
レテの村までの道は険しいが、距離的には先日歩いた王都までの道程(平原プラス山道)とそう変わらないという。順調に行けば日が沈む前には、レテの村に辿り着くらしい。
(逆に言えば、日が高い内はまだまだ着かないってことよね)
私は空高くある太陽を仰ぎ、小さく溜息をついた。
「ナツメ。視察団は何故、境界線に気付かなかったと思う?」
カサハが一度ナツメを振り返り、問う。
今日もまた山道で普通に会話が始まっている……元気だ。
「そうですね。第一に、最初の境界線だったため、『境界線』という知識が無かった。第二に、レテの村は自治区で例え王都からの遣いであっても、立ち入りは許されていない。よって、視察団は山の上からガラム地方を見渡したのみ……地上にある境界線に触れることが無く、気付かなかった。と言ったところでしょうか」
「では、俺たちが村周辺まで下りたとき、どの辺りから境界線なのか見当は付くか?」
「わからない、と言ったら貴方が体当たりで調べそうですね。ですが、俺にはわからなくとも、セネリアなら当然知っているでしょう。玉の在処も含めて」
ナツメの返答に、二人の間に挟まれて歩いていた美生の足が固まる。
美生の反応に気付いたカサハが足を止め、ナツメを睨む。しかしそんなカサハの袖を引いて、美生は左右に首を振った。
「私、レテの村に着いたら、セネリアに委ねたいと思います」
「ミウ!」
カサハが焦った声で、彼女の名を呼ぶ。邸での出来事が、頭を過ったのだろう。
揺れる瞳で美生を見るカサハを、美生が真っ直ぐに見つめ返す。
「大丈夫です、カサハさん。私、図書館で彼女の声をしっかり聞きましたから。彼女が私に何を求めていたのか、もう私は知っているんです」
「…………」
ハッキリとした口調で言い切った美生に、カサハが言葉を失う。
「……わかった」
そしてカサハは短く答えた後、再び前を向いて歩き出した。
ガラム地方の状況を鑑みるに、実際のところは『果てに呑まれて装置自体が消失している』、というのがナツメの見解だ。
ザリッ
王都からレテの村への山中。徐々に硬い土質になる道を、私たちは等間隔で列になって歩いていた。
先頭から、カサハ、美生、ナツメ、私、ルーセンの順で行く。
王都周辺とは違い、こちらは岩場が目立つ。歩いている道は峡谷の崖の上で、眼下に細い川が流れているのが見えた。
「アヤコさん、魔法の効果はどうですか?」
「大分、呼吸が楽。ありがとう」
歩きながらこちらを振り返ったナツメに、私は余裕――とまではいかないが笑顔で返した。
今回も山歩きということで、ナツメが出掛けに身体能力を上げる魔法を掛けてくれたのだ。ありがたい。
出掛けといえば、出発前にカサハから詰め寄ったことに対する謝罪があった。
一人だけ場違いに冷静な人間がいたら、突っかかりたくもなると思う。彼には、気にしていないと伝えた。
レテの村までの道は険しいが、距離的には先日歩いた王都までの道程(平原プラス山道)とそう変わらないという。順調に行けば日が沈む前には、レテの村に辿り着くらしい。
(逆に言えば、日が高い内はまだまだ着かないってことよね)
私は空高くある太陽を仰ぎ、小さく溜息をついた。
「ナツメ。視察団は何故、境界線に気付かなかったと思う?」
カサハが一度ナツメを振り返り、問う。
今日もまた山道で普通に会話が始まっている……元気だ。
「そうですね。第一に、最初の境界線だったため、『境界線』という知識が無かった。第二に、レテの村は自治区で例え王都からの遣いであっても、立ち入りは許されていない。よって、視察団は山の上からガラム地方を見渡したのみ……地上にある境界線に触れることが無く、気付かなかった。と言ったところでしょうか」
「では、俺たちが村周辺まで下りたとき、どの辺りから境界線なのか見当は付くか?」
「わからない、と言ったら貴方が体当たりで調べそうですね。ですが、俺にはわからなくとも、セネリアなら当然知っているでしょう。玉の在処も含めて」
ナツメの返答に、二人の間に挟まれて歩いていた美生の足が固まる。
美生の反応に気付いたカサハが足を止め、ナツメを睨む。しかしそんなカサハの袖を引いて、美生は左右に首を振った。
「私、レテの村に着いたら、セネリアに委ねたいと思います」
「ミウ!」
カサハが焦った声で、彼女の名を呼ぶ。邸での出来事が、頭を過ったのだろう。
揺れる瞳で美生を見るカサハを、美生が真っ直ぐに見つめ返す。
「大丈夫です、カサハさん。私、図書館で彼女の声をしっかり聞きましたから。彼女が私に何を求めていたのか、もう私は知っているんです」
「…………」
ハッキリとした口調で言い切った美生に、カサハが言葉を失う。
「……わかった」
そしてカサハは短く答えた後、再び前を向いて歩き出した。