『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~

『物語』が終わるときには -ナツメ視点-

(完全に寝入ってますね)

 振りではないアヤコさんの寝息を感じ取って、俺は目を開けた。
 こちらを向いて、横向きで寝ているその姿が目には入る。
 俺が寝たふりをしてから三分も経たないうちに寝てしまうとは。安息を得て欲しいというのも本心ではあるが、複雑な気持ちにもなる。

(でも一瞬、俺に触れようとしていた)

 結局それは止めたようだったが、俺に触れたいと彼女が思った事実は嬉しい。

(なので、お互い様ということで俺は貴女に触れますよ)

 言い訳をして、アヤコさんの髪に手を伸ばす。
 俺の手が頭を撫でる動きに彼女が反応を示す。その笑んだ口元が目に入ったことで、俺は今更ながらにカーテンを引き忘れていたことに気が付いた。

(アヤコさんは眠れているようだし、このままで構わないか)

 俺がベッドから出入りする動きで、却って起こしてしまうかもしれない。それに俺だけの都合であるなら、彼女とこうしている時間を一秒でも無駄にしたくない。

(俺は貴女に、俺を眺めていていいと言いました。なのでこれも、お互い様です)

 無防備に眠るアヤコさんを眺める。
 ふと、俺との間に置かれた彼女の手が目に留まった。
 俺の知らない文字を綴る彼女の手。その文字は俺たちに予定された未来で、その正確さをこれまで幾度となく俺たちは見てきた。
 アヤコさんを召喚した当初は、まさかここまでとは思っていなかった。
 敵が何体、どの辺りの方角から来るのか。それがぼんやりとでもわかるのなら、(ぎよう)(こう)と思っていた。正直な話、期待していたのはその程度だった。

(貴女は大した案内人ですね)

 セネリアの始まりの地であるレテにセネリアの魂が帰り、すべての(ぎよく)はルシスに還った。後は最後の仕上げとして、ルシスの神域でミウさんが『世界の記憶』なるマナを流すだけとなる。
 別の世界から引き入れた世界一つ分のマナは膨大。本来の計画の発案者であるセネリアの読み通り、『安定した世界』が実現することだろう。
 そして、俺たちは救われる。直接的にはミウさんの役割が重要ではあるが、それと同じくらいにアヤコさんの貢献は大きい。彼女もまた敬意を払うに値する人物だと、誰もが認めている。

(貴女だけが、貴女の価値をわかっていない)

 アヤコさんは、ここはミウさんが主人公の物語だと言っていた。彼女はそのことに囚われ過ぎているきらいがある。
 目前まで魔獣が来てもその場に留まったり、俺を(かば)い崖から落ちたときでさえ彼女は『物語』を気にしていた。
 彼女はどこか危ういほどに、ミウさんに引け目を感じている節がある。だから、自分自身を(ないがし)ろにするような行為でさえ、当然のこととして躊躇(ためら)わない。
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