空飛ぶ消防士の雇われ妻になりまして~3か月限定⁉の蜜甘婚~
四章 忘れられないキス
四章 忘れられないキス


 白いジャケットにタイトスカート。首元にはゴールドのスカーフをバラの花ように巻く。パールトンホテル、コンシェルジュの制服に身を包み、美月はお客さまに笑顔を向ける。

「いらっしゃいませ。パールトンホテルへようこそ」

 厳しい残暑もようやく去った十月頭。雇われ妻契約の期間も三分の二が過ぎた。

 無事、パールトンホテルの一員となった美月は、少しでも早く仕事に慣れようと奮闘する日々を送っている。

(フランス語のケベック訛り、やっぱり指摘されちゃったなぁ。オンラインレッスンを探して、申し込んでみよう)

 自分の未熟さを痛感することも多いが、新しい職場は人間関係も良好で、美月はやる気に満ちあふれていた。

 充実した一日を終えて帰宅すると、晴馬と過ごす穏やかな時間が待っている。

「おかえり。夕食、もうできてるよ」
「わぁ、ありがとう! 今日は呼び出しなかったの?」
「あぁ」

 非番の日を晴馬は家事や勉強に当てている。急な呼び出しにすぐ対応できるようにと考えてのことだろう。仕事熱心な彼らしいと思う。

「パールトンホテルでの仕事にはもう慣れたか?」
「うん。難しいけど楽しいよ。昨日の上司との面談では、帝都グランデでの経験を褒めてもらえて嬉しかった」
「そっか、よかったな」
「うん。嫌な思い出も残ってしまったけど、帝都グランデのおかげで今の私があるんだよね」

 こんなふうに考えられるようになったのは、傷が癒えた証拠だろう。美月はそっと彼の顔を盗み見る。

(私が立ち直れたのは、晴馬のおかげだ)

 一緒に食事をして、食後のお茶を楽しみながらぼんやりとテレビを眺める。なんでもない時間だけれど、とても心地よい。
 流れている番組は昔からの定番、子どもがお使いにチャレンジする企画だ。がんばる子どもを、彼は目を細めて見守っている。

「ははっ。かわいいな~」
「――うん」
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