エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
(なのにどうしてこんな目にあうのよ?)

 恋人が自分の後輩と浮気していたと知った瞬間も、上司から理不尽な通告を受けたときですら、我慢していた涙がとうとうあふれそうになる。呼吸が浅く速くなっていき、息苦しくてたまらない。

(どうしよう、誰か……誰か……)

 炎を前にすると、あの頃と同じ、無力な少女に戻ってしまう。そんな情けない自分が心底嫌になる。

「おいっ。なに突っ立ってるんだ」

 そのとき後ろから、誰かがギュッと強く美月の手を握った。大きくて、温かい。

「すぐに火元から離れろっ。火が天井に回る前に外に出るんだ」

 振り返った美月と彼の目が合う。

 短めの前髪からのぞく、意志の強そうな眉。綺麗な二重瞼の目元はシャープな印象で、瞳の輝きが強い。すっきりと通った鼻筋に形のいい薄めの唇。瑞々しい美少年がそのまま成長して大人の色香を獲得した。そんな雰囲気の、とびきりのイケメンだ。

(う、嘘でしょう?)

 美月はおそらく、彼を知っている。目の前の彼には当時の面影が色濃く残っていたから。

 運命のいたずらだろうか? 

 時を巻き戻すことはできなかったけれど、二十年前のあの日と似たような状況で、美月は彼と再会を果たすことになった。

 彼のほうも驚いたように何度か目を瞬いたが、すぐに現実を認識して美月に呼びかけた。

「もしかして、動けないのか? なら――」

 当時と違うのはその肉体だ。アスリート並みに筋肉質な腕で、彼は躊躇なく美月を横抱きにした。颯爽と現れピンチから救ってくれるその姿は、子どもの頃に好きだったアニメのヒーローを思い出させた。

 こんな状況なのに、胸がドキンと小さく鳴った。

「もう大丈夫だから。ちゃんとつまっておけよ」

 優しい声と逞しい胸。ものすごくホッとしたせいか、美月の意識はだんだんと遠のいていった。

「おいっ、しっかりしろ。――き、美月っ」

(私の名前……あぁ、やっぱり晴馬なんだ)
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