イケメン御曹司とは席替えで隣になっても、これ以上何も起こらないはずだった。

No.35:広い屋上空間

 チャイム音とともに、エレベーターの扉が屋上で開いた。
 そのままドアを抜けて外にでると、そこには広い屋上空間があった。
 手すりの近くまで寄ってみると……

「うわぁ……」

 まわりのビルの明かりが綺麗だ。
 その向こう側に、夜の海が見える。

「すごくいい眺めじゃない」

「ああ。もう暗くなってしまったけど、夕暮れ時も綺麗だぞ」

「もう……そうやって女の子を連れてきて、酔わせて落としてたわけだね?」

「なっ……違うわ! ここに女性を連れてきたことはないぞ」

「えっ? そ、そうなの?」

「ああ」

 彼は少しバツが悪そうに、下を向いた。
 ちょっと失言だったかな……。

「それに落とした覚えないぞ。勝手に落ちくるだけだ」

「うわぁ、感じワルっ!」

 やっぱり失言じゃなかった。

「ところで、なんだかすごく豪華なんだけど」

 ビルの屋上には似つかわしくない用意がされていた。
 横長のソファーが一つ。
 多分3人だと狭くて2人だと広い、ぐらいのサイズ感。
 それとテーブルが用意されていて、白いテーブルクロスが張られた上に軽食の用意がされていた。
 ピザにフライドチキン、サンドイッチやフライドポテト、カナッペみたいなものもある。
 その横にはアイスボックスが置いてある。
 多分飲み物が入っているんだろう。

「なんでソファーなの?」

「いや、俺も一人がけの椅子を持ってきてくれると思ってたんだけどな。毎年そうだから」

「そう。でも座り心地よさそうだからいいけど」

「アイスティーでも、飲むか?」

「うん、頂きたい」

 彼はアイスボックスから、ボトルのアイスティーと缶コーヒーを取り出した。
 ボトルのキャップを開けて、私に渡してくれる。

「ありがと」

「腹へってるか?」

「なんだか見てたら、お腹空いてきちゃった」

「じゃあ自分で好きなものを取ってくれ」

 そういってプレート一枚、渡してくれた。
 私はピザとフライドチキンとカナッペを取った。

 ソファーの前のローテーブルに、お皿と紅茶のボトルを置いて座る。
 体が心地よく沈み込んだ。
 多分高級なソファーなんだろうな……。

「ところで……他の人たちは? その、教育係の人とか?」

「ああ、なぜか今日は2人だけになってしまった。なんだか変な気を使われてな」

「えっ? そ、そうなんだ」

 ということは、何?
 こんな豪勢なソファーに座って、宝生君と2人で花火を見るってこと?
 
「まあ大人数だろうが、一人だろうが、花火を見ることには変わりないからな」

「う、うん。そうだね……」

 変わりないことはないと思うけど……。

「この間中間テストだったと思ったら、もうすぐ期末テストだな」

「あーそうだね。また勉強会、やる?」

「ああ、頼めるか?」

「前にも言ったけど、今度は数学教えてね。あと英語も」

「まあ必要なら。多分教えることもないと思うが」

「そんなことないよ。最近応用問題でかなり難しいの出てくるじゃん。ああいうのって、解くのに時間かかるからさぁ」

「まあそうだな」

 また市立図書館で、勉強会だ。
 予約を入れておかないと。

「そういえばさ、会場周辺ってお店がたくさん出るじゃない」

「ああ、そうだな」

「そういう所って、行ったことある?」

「小学校低学年の頃とかは、行ったな。吉岡とか西山に連れてってもらったよ。父親には連れてってもらった記憶がないな。やっぱりセキュリティーが大変だからな」

「そうなんだね。私も小さい頃、お父さんに連れてってもらった覚えがあるなぁ」

「浴衣着てか?」

「うん、そうだね……ねえ、やっぱり浴衣着てきた方がよかった?」

「は? いやいや、だからそれだと苦しいだろ? いろいろ食べられないし」

「そうだね。ソファーだと帯が背中に当たって座りにくかったかも」

「たしかにな。それに花火見ている間に寝ちまったら、いろいろはだけたりして大変だぞ」

「べ、別に寝ないし」

「映画館で熟睡してたヤツが何言ってんだ」

「あ、あれは仕方ないでしょ? 前の日あんまり寝れなかったんだから……」

「そうだったのか?」

「えっ? あーもーいいでしょ! 何時から始まるんだっけ?」

 私は墓穴を掘る前に、話を変える。
 すると目の前にヒューっと音がして、オレンジ色の光が登ったかと思うと、パァーンと大きく弾けて花を咲かせた。
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