王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 付け焼き刃のマナーしか会得していない自分では、彼の伴侶になるなんて、おこがましいにも程がある。そもそも王太子妃という座も、聖女でなければ得られなかったものだ。

(ほとんど庶民のわたしでは所詮、彼とは見る世界が違うのだわ……)

 ジュリアンの――王太子の妃となる器は自分にはない。
 聖女らしさを保つのにも苦労しているというのに、加えて王太子妃まで演じなければならないなんて、クレアには荷が重すぎる。その事実に、今さらながら恐怖を覚えた。

「あの……王太子殿下」

 震える唇を懸命に動かすと、ジュリアンはティーカップをソーサーごと机に戻して、優しく話の続きを促した。

「はい。何でしょう? 質問や不安、罵倒など、心のままに遠慮なくおっしゃってください」
「…………」

 何か不穏な単語が紛れていた気がするが、聞き間違いだろうか。内心首を傾げるクレアに、ジュリアンは穏やかな微笑みだけを返す。
 だから、きっと気のせいだろう、とクレアは心の中で断じた。

「聖女は……その、必ず王家に嫁がなければならないのでしょうか?」
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