王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
「いいえ。そんなことはありません。聖女は女神の次に尊ぶべきお方。神聖なる聖女を王国の古いしきたりで縛り、無理強いすることは絶対にあってはなりません。……もし、あなたが王太子妃を辞退したいとお望みなら、そのように取り計らいます」

 よどみなく、すらすらと告げられて戸惑う。
 だって、すべてクレアがそうだったらいいなと思っていた言葉ばかりだったから。

「ですが、その前にひとつ、伺いたいことがあります」
「……何でしょうか」
「もしも私が王太子でなかったら……いいえ、ただのリアンとして求婚していたら、あなたの心は今と違っていましたか?」
「…………」

 ずっと心の中でくすぶっていた質問の答えを耳にし、クレアは押し黙った。
 目の前の彼は、やはりリアンなのだ。その事実に安堵する一方で、彼を深刻そうな雰囲気にさせている原因は自分だと思うと胸が痛む。

「少し……考えるお時間をいただけませんか?」

 なんとか絞り出した答えに、ジュリアンは王太子らしく余裕のある笑みで頷いた。

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