疫病神の恋
◇エピローグ◇

「綺麗だ……、本当に、すごく」
 普段は饒舌なのに、彼の言葉がつかえる。瞳をきらきらさせながら、そんな恥ずかしいことを平気で言ってくる愛おしい人。
 しあわせすぎて、自然と笑みが零れる。

 幸が無事に退院してから、いろいろあった。
 悠生はあのあとすぐ、本社に戻ってしまった。
 悠生が抜けた穴が大きすぎて、彼の陰口を言っていた営業課の社員たちが上司に泣きついたらしい。社長の指示で悠生には知らされていなかったが、もともと支社への異動は期間限定の話だったそうだ。
 
 幸はといえば、周りの人たちにこれまでの失礼な態度を謝罪して、これからはどうか仲良くしてほしい、と頭を下げた。

 桃香とは、あれっきり会っていない。
 叔父から、謝罪めいた電話が一度あったけれど、はじめから責めるつもりはなかった。過ぎたことは気にしても仕方がない。ただお互いに、どうしようもないほど相性が悪かったのかもしれない。そういこともある。

 それからは少しずつ、人を拒絶する前の昔の自分を思い出していった。
 笑うことが好きだった。他愛もない話をすることが好きだった。みんなの和気あいあいとした空気に触れるのが好きだった。人が、大好きだった。
 子どもの頃の自分を思い出しながら、今の自分を重ねていく。それが、新しい今の自分になる。

 悠生とは、あれから一緒に住むことになった。
 通勤するには遠いのだから、幸は週末だけでも会えれば十分だと伝えたが、悠生が「どうしても一緒に暮らしたい」と言ってきかなかったのだ。

 両思いになってからの悠生は、言葉や行動で毎日愛を伝えてくれた。

 今だってそうだ。
 目尻を蕩けさせるその表情だけで、どれだけ愛されているか実感できる。
「事前に控室に見に来てよかった。結婚式本番で初見だったら、幸が綺麗すぎて絶対にフリーズしてた」
「悠生さんも、とっても素敵です」
 お世辞ではなく、白のタキシードがこんなにも似合う男性はきっと他にいないと本気で思う。
「ありがとう。幸は、天使……いや、それ以上——女神みたいだ」
 大げさすぎる誉め言葉に、くすくすと笑いが込み上げる。
「もう…、誉めすぎです」
「本心だよ。これからも、僕だけの女神様でいてくれる?」

 疫病神だと罵られていたのに、まさか女神と言われる日が来るなんて。
 しかも、たった一人の愛する人から。
 こんな幸せなことはない。
「わたしでよければ、末永くよろしくお願いします」

 愛する人に、抱きしめられる。
 彼の肩越しに、今日の日のために持ち込んだ両親の写真と目が合った。
——お父さん、お母さん、わたし、幸せだよ

 結婚イコールゴールだと思っているわけではない。
 ただひとつだけ確かなのは、今この瞬間、幸は世界一しあわせな新婦であるということ。

 悲しくて寂しくて『なんのためにわたしは生まれてきたの?』と問いかけたあの日の自分に伝えたい。

——あなたは、幸せになるために生まれてきたんだよ

 これからも苦しいこと、つらいことはあるだろう。
 でも、どんな困難も乗り越えられる。
 もう、心がひとりきりになることは、きっとないと信じられるから。

【end】
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