疫病神の恋
 悠生が、これまでのことを話してくれた。
 幸の心を動かしてほしいと頼まれてやってきた事。どうして名前を偽ったのか。

 真摯に話してくれたことで、これ以上の嘘はないと信じることができた。彼が感じていた息苦しさを理解できたとは言えない。でも、理由としては納得できた。

「鈴木部長と悠生さんが従兄弟だっていうのは、驚きました」
「……篤さんと血縁だと知られると、また『コネ入社か』と言われてしまうかと思って、隠していました」

「———部長は、わたしのこと、ずっと心配してくださっていたんですね」

 有難さよりも、申し訳ない気持ちのほうが上回ってしまう。
 悠生が、焦ったように手を握ってくる。

「篤さんから頼まれて近づいたのは本当です。でも、だから好きになったわけじゃない!きっと、どこでいつ出会ってても、僕はあなたを好きになっていました」
 悠生の声が、あまりにも切実で。
 幸も、真剣に返事をしなければと思った。

「わたし、病院で目が覚めたとき、近くに悠生さんがいてくれて、すごくほっとしたんです……」
 もう、自分が疫病神だなんて思わない。
「今ならわかります。両親は事故に遭遇したら、もしも近くにいたのがわたしじゃなくても、きっと助けたんだろうなって」
 桃香を助けるために、体が勝手に動いた。そんな自分は間違いなく両親の娘なのだと、嬉しく思った。
 自分は愛されていたこと。幸せになっていいこと。それに気付かせてくれたのは、悠生だった。
 それだけが理由じゃない。
 優しくしてくれたからとか、好きになってくれたからとか、そういう分かりやすい理由じゃなくて——いや、けれど、そういう単純な理由でもいいのかもしれない。
 恋なんて、考えてするものじゃない。理屈じゃないんだ。

「わたしも悠生さんが好きです。わたしの手を包んでくれるのはあなたの手じゃなきゃ嫌だ、って心から言えます」

 彼がせつなげに眉根を寄せて、それから満面の笑みで幸を抱きしめた。

 冷静に考えると恥ずかくなってしまうような言葉。でも、幸にとっては紛うことなき本心だ。
「わたしを見つけてくれて、ありがとう——」

 そっと重ねた初めてのキスは少ししょっぱくて。けれど、それがどちらの涙なのかなんて、二人には関係なかった。
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