強引な御曹司社長は色気のない女刑事にご執心!
「確かに履き心地はいいですけど」
「すごい素敵だよ!」
 諒也はきらきらした目で咲弥を見る。

「髪もメイクも整えてくれ」
「かしこまりました」
「まだなにかやるの!?」
 手を引かれ、悲鳴のように咲弥は叫んだ。だが、相手は一般市民だ。抵抗などできるはずもない。

 別室に連れて行かれ、仕方なく鏡の前に座り、なされるがままに不安な時間を過ごした。顔だけではなく背中や腕の肌の手入れもされた。

「素敵にできましたよ。背筋を伸ばしてくださいね」
 ケープを取り払われ、背を押された。思わずピンと背筋を伸ばす。若い頃は身長を気にして猫背だったから、癖になってしまっている。

 鏡で全身を見る。
 似合っているようには思えなかった。ただひたすら違和感があって、居心地が悪い。

 それでも耳の横のくるんくるんに巻かれた髪を見ると、なんだかうきうきした。
 珍しくきちんと化粧をしてもらい、髪をアップにされた。見慣れて来たせいか、ドレスが自分に似合っている気がする。
 きちんと女性になれただろうか。周りにはどう思われるだろうか。

 悠雅は、どう思うだろうか。

 思ってから、自嘲した。なんであんな人を気にしてしまったのだろう。
 店員に連れられてショップに戻る。
 待っていた男二人は、咲弥を見て驚いた。

「思った通りだ。君は美しい」
「とっても綺麗だよ!」
「ありがとう」
 咲弥はぎこちなく笑った。

「では、行こうか」
 悠雅は微笑して手を差し出す。咲弥は戸惑う。
「エスコートだよ」
 諒也に言われて、仕方なくその手をとる。

 ぎゅっと握られてドキッとした。
 隣に立つ彼は背が高いので、ハイヒールを履いてもまだ目線は彼のほうが上だ。
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