強引な御曹司社長は色気のない女刑事にご執心!
 思わずじっと彼を見てしまう。
 端正な横顔だった。眉はきりっとしていて鼻が高く、頬の輪郭はシャープだ。鼻から口元にかけてのEラインもすっきり整っている。
 彼が微笑して振り向いた。

「俺の顔になにか?」
「なんでもないです」
 言って、うつむく。

 店を出て車の前に行くと、彼はドアを開けて咲弥を乗せてくれた。
 女性扱いに慣れていないから、咲弥はただドキドキした。

 きっと、いつもこうやって女を口説くのね。
 咲弥は冷静になろうと思考を巡らす。
 だが、手を差し伸べて微笑する彼がなんども頭に浮かび、顔が熱くなる一方だった。



 レセプション会場に着くとまだ開場前で、係員が準備に駆けまわっていた。
 県警本部からも何人かの警護が出ていて、咲弥は緊張しながら挨拶した。
 衣裳を怒られたらどうしようかと思っていたが、悠雅が隣にいるせいか、咎められなかった。むしろ、今日は頼むぞ、と肩を叩かれた。

 悠雅が最終確認のためにホテルの支配人と話をするのを、なんとなく横で聞いていた。
 事前に爆発物のチェックが行われ、従業員のボディチェックも行われたという。

「あれ? もしかして、お嬢?」
 懐かしい声がした。
 そちらを見ると、懐かしい人が笑顔で立っていた。

「泰輔さん!?」
 咲弥は驚いた。
「見違えたよ、すごくキレイだ」
 泰輔が優しく微笑する。

「そ、そんなこと」
 咲弥は照れてうつむいた。
「知り合いか?」
「昔の知り合い」
 悠雅の問いに、泰輔が答える。

 彼女より四歳上の来富泰輔(ことみたいすけ)は、今は解散した来富組の組長の息子だ。
 解散直前、組長が刑事だった咲弥の父になんどか相談に来ていた。そのときに彼も連れられてきていたので、咲弥は彼を知っていた。

 彼はまだ小さい咲弥をお嬢と呼び、大人たちが難しい話をしている間、一緒に遊んでくれた。
 咲弥が警察官を目指すと知ったとき、彼は消えた。会うのは久しぶりだった。
< 11 / 43 >

この作品をシェア

pagetop