あやかし外交官は愛する身代わり妻と離婚したい
 竜巻はあやかしに到達する前にするすると消えてしまった。

「あ、あれ?」
 風磨が焦る。

「捕まるわけだわ」
 静穂は力なく笑った。

「笑うなよ、これから本気出す!」

「大人しくしろ!」
 獄吏が大声を上げる。

「退魔師ですか」
 聞き覚えのある声に、静穂はビクッとした。

「大人しく牢に戻りなさい。私は忙しいんです」
 雷刀の声だ。

 静穂は動揺した。と同時になんだかうれしい気持ちがわいてきて、さらに動揺する。

 なんでうれしいなんて思うんだろう。

 暗がりに彼の紫の目が光る。

瑞穂之雷(みずほのいかずち)様、ここは我らが」
 一つ目のあやかしが言う。

「瑞穂の……? 二つ名持ちか!」
 風磨の声に喜色が混じる。

「倒せば名を上げられる!」
「力量も量れぬ愚か者が」
 雷刀の呆れる声がした。
 彼が片手を突き出すと、風磨の体がふわっと浮き上がった。

「わ、わわ! やめろ!」
 叫んだ直後、雷刀が手を翻す。

 ドシャッと風磨が落ちた。

「乱暴はやめてください!」
 思わず静穂は叫んだ。

「先に乱暴を働いたのはこの者ですよ」
 雷刀はまた呆れたように言った。

「くっそー!」
 風磨が立ち上がる。

「竜巻烈風拳!」
 また竜巻が起こる。先程よりは大きかった。高さ五十センチくらいだ。
< 22 / 44 >

この作品をシェア

pagetop