降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。
なのに、桐生さんのことを好きになっちゃって、そんなの……美冬が快く思うはずがないって、そう思ってしまう。


『は?なにそれ。あたしのことはどうでもいいわけ?どーぞ、勝手にすれば?』


──── なんて言わないよ。美冬はこんなこと、絶対に言ったりしない。


むしろ『いいんじゃね?』って、応援してくれると思う。

それでも臆病な私は、余計なことを考えてしまう。


『梓。あたしのこと何だと思ってんの?あたしはさ、梓が幸せだったらそれでいいの。あたしを理由に何かを諦めたり、遠慮すんのとかやめろよ』


「…………ごめん美冬。私、桐生さんが好き」


時計を見ると、もう20時を過ぎていた。

美冬からこの時間帯にひとりで外出するなって言われてる。危ないからバイト先にも遅くには来るなって。でも、今すぐ……直接美冬に会って伝えたい。

私は家を飛び出した。



──── そして、美冬の言い付けを守らなかったことを後悔する。



「キミ、月城 梓だよね」


明らかに“普通”ではなさそうな男の人に声をかけられた。


「人違いじゃないですか?」

「桐生がえらく気に入ってるらしいじゃん」

「……すみません、急いでるんで」

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