降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。
そう言ってマンションへ向かう美冬を慌てて追う私。


「ねぇ、美冬」

「なにー」

「あの人ってっ……」

「ただのクソうぜぇストーカー」

「……あの人のっ……」

「だーかーらー!!何でもないって!!」

「違うって!!名前!!あの人の!!」

「……長岡 悠悟(ながおか ゆうご)だってーー」

「そっか」


まあ、機嫌が悪いこと悪いこと……。

何か弱みでも握られちゃったのかな、美冬。

桐生さんの仲間だから、悪い人では絶対にないと思うし、きっとあの人……美冬のことが好きなんだと思う……多分。


「はぁぁ……ほんっとダルいわ、あの男」

「いい人そうだけどね」

「はあ?鬱陶しいだけだって、マジで」


── そんなこんなで、ようやく家に戻ってきた。


美冬にちゃんと話そう。

もう、後戻りはできない。



これからも桐生さんに傘を貸すのは──“この私”。



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