降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。


「傘、ありがとな」

「いえいえ。はい、これ……今日の夕飯は唐揚げです」

「旨そうだな」

「お口に合えば嬉しいです」

「ありがとな。また後で」


私の頭を撫でて、チュッと音を立てながら額にキスを落とす桐生さん。

・・・・ちょっとだけ寂しい唇。


「そんな顔すんな」


そう言いながら私の後頭部に手を回して、引き寄せた桐生さんの唇が、私の唇と重なった。


「止まんなくなるだろ」

「止めないでください」

「ったく。煽んじゃねーよ」


ベシッと私の頭にチョップしてきた桐生さん。


「また今度な」


意地悪な顔をして玄関から出ていった桐生さん。その玄関ドアをただ眺める私。


──── 私達は付き合い始めてからも、傘を貸して、お裾分けし合う仲は変わらず継続している。


これが私達の当たり前で日常。

そして桐生さんは、触れるだけのキスしかしてこなくなった──。


──── 甘く、絆されるような、あの大人なキスが忘れられない。


欲しくて、欲しくてたまらないのに、桐生さんはそうでもないのかな……。

・・・・もしかして、私のキスが下手だったとか……?


サーッと血の気が引いたのは言うまでもない。

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