降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。
こんな言い方をしたら気分悪くしちゃうかな……。

桐生さんが今、どんな顔をしているのか見ることができなくて、うつ向くことしかできない。


「……そうか」


低いけど、とても優しい声がして、ゆっくり顔を上げてみると……目を細めて、フンッと鼻で笑っている桐生さんがいた。


「でも、“そういう人はみんな絶対に悪い人だ!!”……とか、そんなことは一切思っていないので……。偏見みたいな感じになっちゃって、本当にすみません……」

「いや、別に。“怖い”って思うのが妥当だろ。それが当たり前で普通だ」


そう言って、傘もささずにエントランスから出ようとする桐生さん。


「ちょっ……!!」


思わず桐生さんの腕を掴んでしまった。

ガッシリとした、太くて逞しい腕…………じゃなくてっ!!何をしてんの、私!!


「あ、あの……すみません……」


掴んでしまった腕をゆっくりと離した。


「どうした」


いや、そんな真顔で『どうした』って言われても……こっちが『どうした?』って聞きたいんですけど。

なんで桐生さんは降りしきる雨の中、傘をささないの……?


「傘、買ったらどうですか?」

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