万能王女は国のために粉骨砕身頑張ります
 リリ王女が、聖廟に籠って半日。聖廟の中に、メイドの姿をした玉華が顕現した。
「お母さん、どうなってるのよこの国は!」
「え、ええ、酷い国よね」
「国の状態も無茶苦茶なんだけど、親子関係、主従関係も無茶苦茶よ」
 え? と、玉華は目を丸くした。
「ちょっと聞いてよ!」
「え、ええ、いくらでも聞くわ」
「王女として目覚めた時のことなんだけど……」

 莉々がゆっくり目を開くと、立派なベッドに横になっていた。
 肌触りの良い、緋色の布団がどこまでも続いている。暑いので布団を捲ろうと思い端を探したが、見つからない。おかしいなと思いのろのろと視線を動かしてみれば、だだっ広いベッドにぽつんと寝かされている。
(布団の端っこが遠い……)
 腕がだるいため、布団を手繰り寄せるのは諦めた。体を起こそうかと試みたが、鉛のように重たくて動かない。
「はぁ……背中が痛い……」
 天井が高く――いや、これはいわゆる、天蓋付きベッド、というやつだ、と莉々は苦笑した。イメージしていたものよりはるかに広い。
 白い柱があって、白いレースが垂れている。その向こうは……よくわからない。
 どうしたものか。
 布団はめくれないし、体を起こすどころか寝返りすら打てない。どうなっているのだろう。
「おおおおお王女さま……リリ王女さま、おおおおお、お目覚めですか!」
 若い女性の素っ頓狂な声がした。レースが動いて、女性がひょこんと顔をだした。まだあどけない、三つ編みのよく似合う女の子だ。

――彼女の名前はシェルリ、最下級メイドの一人。王女に仕えて半年。地方の農家の長女ゆえしっかり者で働き者である。方言が抜けず王女にはしょっちゅう叱責されていた。

 莉々が頼まなくても、頭の中にデータが流れこんできた。天界が気を利かせて送ってくれているのだろう。
 やればできるんじゃない天界も、と莉々は声に出さずに天界を褒め称えた。天界じゃからな、もっと褒めよ、と天帝の声がしてさすがの莉々もぎょっとした。
 が、今はそれどころではない。

「暑、く、て……」
「え、あ、あ。暑い、でございますか?」
 なぜか怯えた目を向けてくる。
 布団を取ってくれ、と目やジェスチャーで伝えようとするが、ちっとも伝わらない。
「申し訳ございません、わたくしが愚鈍で……お給料の天引きはこれ以上は……体罰なら受けますので、はい。えっと、ええと、でしたら、お布団を少し、調整させていただきますが、それでよろしいでしょうか」
 おっかなびっくり言われて、コクコク頷く。
 彼女の様子から、なんだか嫌な予感がするが、喋って確認しようにも、喉が引き攣って声が出ない。

――なお、体罰や給料の天引きは、この国の法律上してはならぬことになっておる! 彼女を安心させてやってくれ 

 声が出るようになったらしますね、と莉々は心の中で返事をする。頼んだぞ、と天帝の声。
「で、で、では、ししししししし……失礼いたしますっ!」
 ほんの少し布団をずらし、心地よくなったことを伝える。
 次に顔を出した、やっぱり若いメイドに、どうにかジェスチャーで水を持ってきて飲ませてもらうことに成功し、ほっと一息。
 ベッドで一人になった莉々はため息を吐いた。
(この王女サマ、相当腫れ物扱いだわ……)

 世話係のメイドたちだけでなく、駆けつけた侍医や薬師も一事が万事おっかなびっくりで腰が引けていた。
 莉々が普通に会話をするものだから、侍医は目をぱちぱちさせて、あちこち診察し、首を傾げた。
 問診は、困らなかった。天界からせっせとデータと模範解答が届くので、それを答えればよかった。
「天界も、やればできるじゃない」
「は、何か?」
「あ、いえ、ごめんなさい、ひとりごと」
 ごめんなさい!? と、周囲の人たちが合唱した。
 次いで、慌てて口をおさえ、飛び下がって床に額をこすりつけるところまで動きがシンクロしていて、莉々は己の嫌な予感が的中したことを知った。

「あー……みんな、顔をあげて。うん、なんとなく、察したわ……」

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