本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第11章 2 誰もいない待合室で
「ありがとうございました」
面談が終わり、ナースステーションで挨拶をした私はエレベーターホールへと向かった。
エレベーターに乗りこみ、扉が閉じる瞬間、私は目の前の廊下を横切るお姉ちゃんの姿を見てしまった。
「!」
それは、ほんの一瞬の出来事だった。お姉ちゃんはこちらを見る事も無く、廊下を歩いていた。何処かその瞳はうつろで、青白い顔は生気が抜けてみえた。
「あ……」
扉が閉じられ、エレベーターが階下に降りてゆく中で、身体の震えが止まらずに両肩を思わず抱きかかえていた。間違いない、あれは絶対にお姉ちゃんだった。最初亮平にお姉ちゃんの入院生活の話を聞いたら、個室に入院中で部屋から出る時は必ず看護師の付き添いが無いと廊下にも出られないと言っていたのに……。
「ひょっとして……お姉ちゃん、少しは以前に比べて状態が良くなったって事……?」
ポツリと呟いた時――
ピンポーン
自動ドアが到着を知らせるメロディーを流し、目の前の扉が静かに開いた。まだ身体の震えが止まらない状態でふらふらとエレベータを降り、1階の総合受付のソファにドサリと座った。
広々とした受付は、もうとっくに診療時間は終わり、夜間の救急窓口だけが開いている。
そこだけがまるでスポットライトをあびたように明るく照らされ、残りの電気は全て消えて暗くなっている。
診察室へ続く右側を見れば等間隔に付けられた電気の下でソファと観葉植物が明るく照らされていた。左側を見れば、そこは病院の出入り口でガラス張りの大きな自動ドアからは駐車場に止められた車が何台か駐車しているのが外灯で照らされて見えた。
「ス~ハ~……」
誰もいない薄暗い待合室でソファに座った私は深呼吸をして、まだドキドキしている心臓を何とか落ち着かせようとした。何回か深呼吸を繰り返し……ようやく身体の震えも止まった。
「私も本当はお姉ちゃんの暗示にかけられているの……?」
だって以前ならこんなにお姉ちゃんの事を怖いと感じたことは無かった。なのに今は視線が合わなくても、一瞬すれ違っただけでも激しく動揺している自分がいる。
一体何故……?
お姉ちゃんの事は大切に思っているはずなのに……どうしてこんなにお姉ちゃんを怖がってしまうの?
つい目頭が熱くなり、私は持っていたハンカチで目を抑えると、突如スマホに着信が入ってきた。
トゥルルルルルル……
トゥルルルルルル……
シンと静まり返った病室にスマホが鳴り響き、心臓が止まるのではないかと思うほど驚いてしまった。
慌ててスマホをバックから取りだすと、かかって来た相手は亮平だった。
「亮平……?」
何だろう? 亮平とはスーパー銭湯へ行ってからは一度も顔も合わせていないし、連絡すら取りあっていない。でも、ちょうど連絡をしようかと思っていたから都合がいい。
私は受話器をタップして電話に出た。
「はい、もしもし?」
『ああ、鈴音か? 実は今日仕事で偶然錦糸町方面で外回りがあったんだよ。直帰する予定だったから一緒に帰ろうかと思ってお前の勤めている支店に寄ったら、今日は病院へ行く為に早退したって聞いたから……お前、ひょっとして体調悪いのか?』
「ううん……そうじゃなくて……ちょっとお姉ちゃんの担当の先生と面談してきたんだよ」
すると亮平の声のトーンが変わった。
『面談? 何で?』
「何でって……勿論お姉ちゃんの事で話があったからだよ?」
『ふ~ん。そうか、なら今夜は自分の家に帰って来るんだろう?』
「え……?」
私は言葉に詰まった。本当はマンションに帰るつもりだったんだけど……。
「あ、あのね……亮平。今夜は……」
『帰って来い。鈴音』
「え?」
『お前に話があるんだよ』
それは有無を言わさない、強い口調だった――
面談が終わり、ナースステーションで挨拶をした私はエレベーターホールへと向かった。
エレベーターに乗りこみ、扉が閉じる瞬間、私は目の前の廊下を横切るお姉ちゃんの姿を見てしまった。
「!」
それは、ほんの一瞬の出来事だった。お姉ちゃんはこちらを見る事も無く、廊下を歩いていた。何処かその瞳はうつろで、青白い顔は生気が抜けてみえた。
「あ……」
扉が閉じられ、エレベーターが階下に降りてゆく中で、身体の震えが止まらずに両肩を思わず抱きかかえていた。間違いない、あれは絶対にお姉ちゃんだった。最初亮平にお姉ちゃんの入院生活の話を聞いたら、個室に入院中で部屋から出る時は必ず看護師の付き添いが無いと廊下にも出られないと言っていたのに……。
「ひょっとして……お姉ちゃん、少しは以前に比べて状態が良くなったって事……?」
ポツリと呟いた時――
ピンポーン
自動ドアが到着を知らせるメロディーを流し、目の前の扉が静かに開いた。まだ身体の震えが止まらない状態でふらふらとエレベータを降り、1階の総合受付のソファにドサリと座った。
広々とした受付は、もうとっくに診療時間は終わり、夜間の救急窓口だけが開いている。
そこだけがまるでスポットライトをあびたように明るく照らされ、残りの電気は全て消えて暗くなっている。
診察室へ続く右側を見れば等間隔に付けられた電気の下でソファと観葉植物が明るく照らされていた。左側を見れば、そこは病院の出入り口でガラス張りの大きな自動ドアからは駐車場に止められた車が何台か駐車しているのが外灯で照らされて見えた。
「ス~ハ~……」
誰もいない薄暗い待合室でソファに座った私は深呼吸をして、まだドキドキしている心臓を何とか落ち着かせようとした。何回か深呼吸を繰り返し……ようやく身体の震えも止まった。
「私も本当はお姉ちゃんの暗示にかけられているの……?」
だって以前ならこんなにお姉ちゃんの事を怖いと感じたことは無かった。なのに今は視線が合わなくても、一瞬すれ違っただけでも激しく動揺している自分がいる。
一体何故……?
お姉ちゃんの事は大切に思っているはずなのに……どうしてこんなにお姉ちゃんを怖がってしまうの?
つい目頭が熱くなり、私は持っていたハンカチで目を抑えると、突如スマホに着信が入ってきた。
トゥルルルルルル……
トゥルルルルルル……
シンと静まり返った病室にスマホが鳴り響き、心臓が止まるのではないかと思うほど驚いてしまった。
慌ててスマホをバックから取りだすと、かかって来た相手は亮平だった。
「亮平……?」
何だろう? 亮平とはスーパー銭湯へ行ってからは一度も顔も合わせていないし、連絡すら取りあっていない。でも、ちょうど連絡をしようかと思っていたから都合がいい。
私は受話器をタップして電話に出た。
「はい、もしもし?」
『ああ、鈴音か? 実は今日仕事で偶然錦糸町方面で外回りがあったんだよ。直帰する予定だったから一緒に帰ろうかと思ってお前の勤めている支店に寄ったら、今日は病院へ行く為に早退したって聞いたから……お前、ひょっとして体調悪いのか?』
「ううん……そうじゃなくて……ちょっとお姉ちゃんの担当の先生と面談してきたんだよ」
すると亮平の声のトーンが変わった。
『面談? 何で?』
「何でって……勿論お姉ちゃんの事で話があったからだよ?」
『ふ~ん。そうか、なら今夜は自分の家に帰って来るんだろう?』
「え……?」
私は言葉に詰まった。本当はマンションに帰るつもりだったんだけど……。
「あ、あのね……亮平。今夜は……」
『帰って来い。鈴音』
「え?」
『お前に話があるんだよ』
それは有無を言わさない、強い口調だった――