本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

第20章 8 大事な話

「おかわり!」

亮平がお茶碗を何故か私に差し出してくる。

「はいはい」

ガタンと席を立ち、亮平のお茶碗を預かるとキッチンに向かった。そしてしゃもじでごぼうの炊き込みご飯を多めによそうと亮平の元へ持っていった。

「はい、3杯目のお代わりだよ」

ドンとテーブルの上に置いた。

「お? 何だ〜今度は山盛りだな?」

「だってお代わり2回もするなんて思わなかったんだもの。『居候、三杯目はそっと出し』ってことわざ知らないの?」

「まぁまぁ、別にいいじゃないの。鈴音ちゃん」

お姉ちゃんがけんちん汁を飲みながら笑った。

「そうだぞ、忍さんの言う通りだ。大体俺は居候じゃないしな」

「ええ、そうね。亮平くんは家族も同然だから」

そう言って2人は視線を合わせ、微笑み合う。まただ、こんな風に2人は意味深な……思わせぶりな態度を取る。2人は構わないかも知れないけれど、それを傍らで見ている私の身にもなって欲しい。何とも言えないモヤモヤしたような、自分でも訳の分からない気持ちになってしまうから。

私は黙ってご飯を口に運んでいると亮平が声をかけてきた。

「鈴音。もしかして自分のお代わりの分が無くなると思ってるのか?」

「違うよ、そんなんじゃないから。だってまだ炊飯器に沢山余っているし。お姉ちゃん、一体何合炊いたの?」

「そうね、5合炊いたわ」

「「え?5合っ?」」

私と亮平の声がハモる。

「ええ、そうよ? タッパに詰めて鈴音ちゃんに持っていってもらおうと思っていたから。残りはおにぎりにして冷凍しておくつもりだったし」

「あ……そ、そうだったんですね……? 良かったじゃないか鈴音。炊き込みご飯分けてもらえて」

「うん……そうだね」

私は2人の会話が……何となく私に気を使っている様に見えてしまい、気詰まりを感じながら食事を進めた——


****

午後9時―


「鈴音ちゃん、またね。それじゃ亮平くん、鈴音ちゃんをよろしくね?」

お姉ちゃんが私にタッパの入ったエコバックを手渡してきた。

「ええ、任せてくださいよ。それじゃ行くぞ。鈴音」

「う、うん……」

亮平に促され、ショートブーツを履くとお姉ちゃんを見た。

「それじゃ、お姉ちゃん……またね」

「ええ、またね?」

—―バタン

玄関の扉が閉められ、門扉を見ると車が前に止められていた。

「おじさんとおばさんにたまには挨拶した方が良いよね?」

車に向かう亮平に声をかけてみた。すると亮平が振り返る。

「いや、その必要は無いさ。両親共に2人で箱根へ温泉旅行に行ってるからな。ほら、来いよ。助手席に座れよ」

「そうなの?」

見れば確かにおじさんの車が無いし、家の電気も消されている。

「え……? だけど仕事は?」

亮平の車に乗り込みながら尋ねてみた。

「もう父さんは嘱託勤務だから、あまり時間に縛られていないんだよ」

「そうなんだ……」

「よし、行くか」

ハンドルを握っていた亮平がアクセルを踏んだ――



****

車を走らせ始めた頃は、亮平の口から出てくるのはおじさんとおばさんの話ばかりだった。旅行に行ったのは昨日から、2泊3日の箱根旅行らしい。

「今日は大涌谷で名物の黒たまご食べたって言ってたな。美味しかったからお土産に買って帰るって写メが父さんから届いたよ」

「そうなんだ。でも旅行行くならうちの代理店を通してくれれば良かったのにな」

亮平の前だからつい、本音を語ってしまう。

「ハハハ……そう言うなって。その宿泊券て株主優待で貰ったものなんだからさ」

「え? そうだったの? それはイケナイ事を言ってしまったみたいだね」

おじさん、おばさん、ごめんなさい。

「でもすっかり、お前も旅行代理店の人間になったからな」

「でも、去年の4月はうちの代理店には新入社員が入らなかったから今も新人扱いだけどね」

ため息を付きながら言うと、ちょうど赤信号になって車が止まった。すると亮平が急に真顔な顔で私を見た。

「鈴音……俺、お前に話があるって言っただろう?」

「う、うん……」

心臓がドキドキしてきた。

「川口の事なんだ……」

ああ、やっぱりそうなんだ――
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